兵站(ロジスティックス) 存続の問題 (2019.01.10)
昭和の風林史(昭和五七年十二月三日掲載分)
ガリバー的T社輸大買い
非常に危険な輸大市場である。
相場強弱だけでなく
業界存続の問題を含んだ危機だ。
輸入大豆市場が緊張している。
例のT社買いが継続され、
一説には三万枚近い買い玉が、
はまっているという。
三市場15万枚の
取り組み(片建三万枚弱)のうち、
これだけの買い玉が一本の筋となると、
市場規模の大きい輸大市場であっても、
影響は大きい。
伝え聞くところT社N社長は、
買い玉五万枚目標。相場六千円。
百億、二百億は取れるだろう―と
スケール大きい計画を語っているそうで、
商取業界は、敵地だから、
敵の陣の中で戦う以上は負けない―とも。
15軍牟田口将軍のインパール作戦は
ジンギスカンの
『敵地に糧を求める』故事に
ならった作戦だったが大敗した。
T社は商取界のカードを読んでいる。
中国大豆の20万㌧入荷は
一度に入るものでない。
シカゴ逆ザヤでは
IOMの輸入契約も進まず、
まして商社の穀取離れは
当分続くとすれば、
六市場の受け渡し玉が枯れるし、
輸入中国大豆は実需向けに確保される。
また、10月、11月納会
受けた仕手筋の買い玉を
タンクする資力のパイプが太ければ、
大きな市場も小さな市場。
定期は売り方の玉負けで煎れ続ける。
取り組みは太り大衆は値頃感で売る。
六千円相場も夢でない―と思うわけだ。
されど、T社の思惑が成功すれば
取引員自己玉大量売りの現在、
業界は資金を吸い上げられ立ち枯れる。
逆に、ふくらませるだけ
ふくらんだT社玉を
相場暴落が襲った時は、
六本木小豆の二の舞いになりかねない。
違約店の三、四社はあるだろう。
このように
危険をはらんだ今の輸大相場である。
業界は、この事について
まだ震撼していない。
恐るべきはT社の存在だ。
●編集部註
戦争で最も大事なのは、
戦力ではなく
兵站(ロジスティックス)である。
腹が減っては戦は出来ぬ―
という単純な話ではない。
それはパゴニスという人が
書いた「山・動く」という本を
読むと判る。
湾岸戦争の時、砂漠の地に
何万もの兵隊を、
その兵隊が使う武器や車両、
更には物量にして億単位の食料を
どうやって届け、
撤退となった時にどのように
米国に持ち帰ったかが書かれている。
牟田口廉也は
全く兵站を考えていなかった。
現地で牛を調達し、荷物を運ばせて、
その後に食料にするという作戦を
立案するが日本の牛と扱いが違い。
輸送手段にも食料にも
ならなかったという。