昭和の風林史(昭和五七年二月二十六日掲載分)
気づいた時には落しあな
知らず知らず安心強気になってしまったその裏側の
落とし穴というものは、案外深いもの。
相場が強いということが人々の印象に定着すると、
少し安いと買いたくなるし、
かなり安くても買い方の力を頼りにして、
いわば値頃観で買う。
三万五千円以下は聖域で、
そのような値段は
今の需給からいって、あり得ない―
という強気の考えかたは、これは信念である。
そして誰もが、知らず知らずのうちに
その気になってしまう。
これが言うところの日柄の怖さである。
人の噂も七十五日と昔から言われる。
相場の世界は“三月(つき)またがり60日”でひと思惑。
75日といい、60日といい、
人間生活のリズムのひと区切りになる日数であろう。
人間は、きょうを中心に過ぎた日の記憶は、
きのう、おとつい、さきおとつい―
と三日をふり返れるし、
あした、あさって、しあさってと、
これも三日できょうをいれて
都合七日が一応生活の単位。それが一週間になる。
相場にしても来る日、来る日が強くて
今度こそ安いと思って売ると止まれば
条件反射で安くても売らなくなる。
このような人気作用の積み重ねが相場にとって、
もっとも油断ならない。
よく、ファンダメンタリストは
理路整然と(相場に)曲がる―といわれる。
これなど典型的な人気作用の裏側の落とし穴に
はまった現象である。
相場が強ばっているあいだは
現物市場も仮需要で、実需の現象を無視するが、
相場がひとたび緩んでくると、現実が表面に出る。
昔から値は荷を呼ぶという。
期近三万六千円という高い値段が、
当たり前のような気になって、
なお上だ、上だと上ばかり見ている状況は
心もとなかった。
需給に勝る材料なしだが、
相場のすべては日柄なり―を心すべきであろう。
●編集部註
勝つ時もあれば、負ける時もある。
相場に勝ち続ける事は決して出来ない。
しかし不思議な事に、
負けに負け続けてしまう経験は
結構あるのは何故だろう。
チャーチストが、
そろそろ三角保合いの線形を
意識し始める時間帯に入って来た。
まだ、小石崩れの線形は登場していない。
この手のテクニカル要因は
ファンダメンタルからは出て来ない。
あくまで現場の空気である。
相場の日柄も大事だが、
取引の日柄も大事である。
取引を始めて終わるまでの時間は人それぞれ。
短期取引が向いている人が
長期取引に臨むと失敗する確率が高く、
逆もまた真なりで、
存外このあたりに連敗の原因がある。