「風に聞けいづれか先にちる木の葉」 漱石 (2017.11.29)
昭和の風林史(昭和五四年十一月二二日掲載分)
お国は六韜三略(りくとうさんりゃく) 売らんけれど売る
いつも相場は人気の裏側にある。
輸大が戻せば大阪先限
五千百円、二百円と売れば判りやすい。
「風に聞けいづれか先にちる木の葉 漱石」
輸大定期市場は中国にふりまわされている。
中国人の商売は、
日本人に理解出来ないものがある。
目の前にあっても、
涼しい顔で、ないと言う。
値段の交渉は、硯一ツにしても
三日も四日もかかって値切れば、
駄目だ駄目だの値段でも、
しまいに古き友人ということになる。
数年前、日本の小豆定期市場は、
中国小豆を売るとか、売らんとかで、
随分ふりまわされた。
商売が上手というのか、狡猾というのか、
中国人との商売や駈け引きは、
腹を立てたほうが負けである。
日本の財界は、
中国との経済協力という事で
日本から38億ドルものプラント輸出契約を
結んだが、これはリスクが大きすぎる。
中国の政治情勢は、
いつどう転ぶか判ったものでない。
松下さんあたり、
リスクについては計算しているだろうが、
あまり深入りすると、
結果はペロリとだまされた
という事になるかもしれない。
まあ、松下さんなら、
バンダル・シャープールの
石油コンビナート投資で行き詰り、
日本政府の援助をあおぐ結果になったような、
われわれ国民の負担によって
カントリーリスクをカバーせずとも、
自分でやった事は自分で片をつけようが、
なんとなく、松下さんは
中国で失敗するように思えてならない。
後世、『あれだけの成功者が、
晩年の政経塾と中国とは失敗だったね』
とならなければよいが。
輸大市場は、
かなり強気になったところで冷やされた。
中国は年内売ってこない
という予測のもとの需給観である。
しかし値が高くなれば売るのが商売である。
ましてお国は、六韜三略お手のもの。
高値で玉をひろげた投機家は、
ぶった斬られた。
自社玉大量売り店は、
首の皮一枚を残して―ということになる。
さて、この輸大相場どうなる。
客が総売りなら再び上だ。
上に行って客が踏めば、それで終る。
相場なんて、所詮人気の裏である。
客が売りたいか、買いたいかは、
客に聞かずとも自分に聞けばよい。
今、自分は売りたいのか、買いたいのか。
相場はその反対側にある。
今回もそうだったが、
輸大は五千百円、二百円、三百円(大阪)と
先限の五干円台を待っていて、
人気が熟したところを
中国流に売るのが一番判りやすい。
●編集部註
ここで登場する〝松下さん〟は、
恐らく松下幸之助の事だろう。
彼はこの時期訪中し、
現在同国では「最初に井戸を掘った男」
と称えられている。