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森羅万象

硬軟熱くなる 抜刀隊の白兵戦 (2017.06.19)

昭和の風林史(昭和五十年六月三日掲載分)
手亡相場は抜刀隊のぶつかりあう白兵戦になった。
S安、S高、殺気がみなぎる一大絵巻。
「いちご熟す去年の此頃病みたりし 子規」
手亡相場は炸裂の乱戦場面を迎えた。
大衆筋は高値に来て買いついた(踏みも出ていた)。
『買い方仕手筋は一万九千円を付けると豪語しているそうだが』
―と市場で噂されているが、
人気がそれを言わせるぐらいだから、かなりの強気がふえている。
店の懐ろは〝旗〟になったところもある。
しかし乱高下の白兵戦で抜刀隊がぶつかりあう場面だけに、
S安→S高→S安と値動きは目まぐるしいだろうから
懐ろ玉も〝持ち〟になったり、その日のうちに〝旗〟になある。
総取り組みのが膨れるだけ膨れての血を見るような激闘だけに、
売りちょうちんにしろ、買いちょうちんにしろ、
腹を据えてかからないと、ぶっ飛ばされよう。
聞くところ今回の仕手戦のキッカケ、
即ち〝蘆溝橋〟の銃声一発は、
大量買い玉を擁するカネツ貿(若林会長)は、
薄商いの市場で売り方山梨商事(霜村社長)が、
バンバン売り叩くのでたまったものでない。
なにをこのやろう―、自社の顧客を思えば当然おこる相場心理だ。
カネツ商事の清水会長は
『一月から四月までに
カネツ貿易の手亡買い建ての証拠金(預り)は
二十億円から十五億円に減った。
減った五億円は売り方山梨の懐に入った勘定だ。
店としてはお客さんを擁護するため
〝場勘〟で取られるなら現受けで防御しようと考えた。
一回S安が入ると二億円が飛んだ。
それならいっそのこと
毎月、毎月五百枚の現受けで現物投資で天候相場を勝負しよう。
カネツ、カネツ貿は全力あげ、わが社の顧客を支援するのだ』―と。
おりからの静岡筋が買いに入った。
売り方山梨は奇襲を受けて五月限を二千丁担ぎあげられた。
手の内のカードが読まれていたようだ。
スリーカードで勝つと見ていたのが
相手はロイヤル・フラッシュだった。
勝負師としては頭に血がのぼるところだ。
カネツ貿の若林氏は常に冷静な勝負師である。
そして『手亡は叩かれ過ぎた。正当な値段ではない』と言っていた。
その信念を貫き『久しぶりでやった』と語る。
早受け二百枚。
東穀協会長店も加わって場面は最大にエキサイトする。
●編集部註
この文章、どこかで見たような光景だと感じた。
昭和三七年に発表された梶山季之の小説
「赤いダイヤ」で同じような構図があった事を思い出す。 
事実は小説より奇なり。
ちなみに、この小説が角川書店で文庫化されたのは
昭和五十年である。
【昭和五十年六月二日小豆十一月限
大阪一万九二四〇円・
東京一万九三〇〇円】