「木曽を出て伊吹日和や曼珠沙華」 碧梧桐」 (2016.10.03)
昭和の風林史(昭和四九年九月二六日掲載分)
群雄は割拠し 中原に覇を唱う<業界見聞記>
小豆相場は、このあたりだろうという、
やや落ち着いた風情。
売りたくなし。買いたくなし。
「木曽を出て伊吹日和や曼珠沙華 碧梧桐」
去就が注目されていたT商事も一件落着した。
中井大穀理事長の斡旋は
三億六千万円ないし七千万円のあたりの価格で
一白水星、昭和二年近江の生まれ西田昭二氏が
掌中におさめた。あわれなるかなT社社の社員。
事情通の予測するところでは大穀申し渡しの増資期限が、この九月中。理事長からもかなり融通があったが、この際、君も第一線を退いて近辺を軽くしたほうがよいだろう―ということ。西田君ならわたしのいう事は、なんでも聞くからどうだ、相談役にでもなって。そりゃ、君のところの若いもんたちも心配して増資の金を走ったらしいが、新築の邸宅も一億二、三千万円いるだろうし、そうしたまえ、私の都合してある分も、それで返済できるだろう。どうだい。
西田氏は毎年、お正月に自分の遺言状を中井さんに預ける妙な癖(へき)がある。これは一種の人たらしの奥の手である。従って中井氏からは絶大な信頼がある。
―理事長、そんなにおっしゃっても、お金のほうのこともあるし、人もいませんし、神戸のBICにつけるとしましてもその…。
お金は、わたしが都合してあげるから心配するな。
へへえー。お願いします。
これで主務省の心配も解消した事になり、中井さんは一石三鳥名理事長。
その時、蝮の本忠ギリギリっと奥歯をかんだ。しかし顔には出さない。彼は彼でピカピカの神戸生糸のシートを一億二千万円でひそかに入手した。向こう一年間の投資である。誰も手に入れることの出来ない珍しい切手であった。
業界は未だ戦国群雄の割拠時代である。
尾張の八白土星昭和四年生まれの岡地中道。近江の国の西田昭二。そして常に治に乱を求め勢力範囲を拡大していく一白水星蝮の本忠。この三人の智略と用兵の極致が、さらに展開されていくだろう。
永禄四年九月も半ば過ぎ信濃の野山は紅葉に色づき秋もたけなわであった―と気取って書かねばなるまい。
さて、二日新ポの九月の相場も納会した。
きょう26日は彼岸明け。
彼は問う。彼岸底なりしか?。
相場は無言。
強弱何ぞ如(し)かんや草頭の露ならん。
中立して天下に聴かん。
●編集部注
閑話休題。平成二八年五月三一日、柳澤健氏が書いた「1974年のサマークリスマス」というノンフィクション本が集英社から出版された。
これは今は亡きTBSアナウンサー林美雄と、深夜ラジオ番組「パックインミュージック」のお話。これを横目に当時の記事を読んでいる。
【昭和四九年九月二五日小豆二月限大阪一万六二五〇円・二二〇円高/東京一万六三二〇円・一七〇円高】