昭和の風林史(昭和四九年八月十六日掲載分)
人気急速軟化 されど崩れない
相場の強弱は自由であるが
弱気せんがための弱気は無理が生じる。
新穀一万八千円は地相場だ。
「轡虫淀の町並そろはざる 草堂」
アメリカの穀類は旱ばつで大幅減産になった。
穀物の輸出規制が論じられるほどである。
日本の穀物相場は
北海道の天候回復、作柄見直しで
手亡相場から騰勢が衰え
市場人気も相場巧者のポジション転換などがあって
弱気に片寄った。
八月15日現在、
十勝中部地区農業改良普及所調べによると
豆類成育状況は八月一日調べの時点の
三~五日遅れから二日遅れまで回復したが、
着きょう数少なく草丈、分枝数も平年より劣り、
サヤの肥大も遅れて病害虫多発とある。
病虫害といえば45年の立ち枯れ病を思い出す。
昨年、一昨年と
反収二・九俵の二年続きの豊作のあとだけに、
この秋は素人考えにも、
なにか相場に影響する材料が
飛び出すのではないかという不安が
つきまとうのである。
目下のところ小豆の収穫予想は
百二十五万俵ないし
百四十五万俵という範囲内に落ち着いている。
あと、八月から九月の冷え込みや
雨、そして降霜、台風などが、
どれだけ影響するかであろう。
早々と二番天井打ちと判断して
売り方針を打ち出した向きもあるけれど、
小豆の一万八千円地相場観の強い現在、
果たして売り方針で下値を幾ら取れるであろうか。
小豆相場は単に小豆の値段ではなく
〝通貨に対するヘッジ商品〟
として考えなければならず、
また昭和五十年凶作という未来に対する投機の
対象物件としても存在する。
小豆そのものの商品価値としては
生産コストの上昇は当然として、
調整費、輸送費、倉庫料の値上がりも上積みされる。
市場は弱気せんがための弱気が
商いの薄い手亡相場を売り崩し、
全般の地合いを腐らせる技法が用いられているが、
これとても限界があることで、
物の値打ち以下に叩かれた商品は
必ず反発する時期がくるものだ。
ここのところは肩の力を抜いて
相場に対処するところである。
新穀一万八千円を売り叩いても
売り込むところによって
むしろ相場は強靭な底値を構成する。
そういうところに冷え込みがくれば大変である。
●編集部註
この記事のロジックを借りれば、
江戸時代がお米で、
この時が小豆であったという事になる。
小説『赤いダイヤ』でも取引に際し、
似たような描写が出てくる。
こればかりは、
リアルタイムに当時を生きた者でない判らない世界だ。
今や通貨自体が一般的な投機商品である。
【昭和四九年八月十五日小豆一月限大阪一万八五八〇円・一二〇円高/東京一万八五八〇円・一八〇円高】