昭和の風林史 (昭和四九年六月十八日掲載分)
気温天候その日その日を追っていては芯が疲れる。
天候相場も大局的趨勢を見きわめる必要あり。
「水草の花のあけくれ渡守 たか女」
納会にかけての荷圧迫を嫌気する玉整理が進行して、
全般に影響すれば、
先限の一万六千七百五十円から六千五百円あたり。
まあ、そういう値段が付けば、
それから出直っていくと見ているのが
淀屋商事の塩谷社長である。
業界では板崎氏が産地で買った現物を
来月あたりから消費地に引っ張るので
在庫の圧迫を懸念している。
しかし名古屋中央商品の伊藤善一社長に言わせると
『彼は市場に悪い影響を与えるような事はしない』
と信頼しきっていた。
伊藤氏は七千円割れは自信と信念を持って
買い下がり方針だ。
六千五百円あたりの値段が欲しいというのも
買いたい弱気が多いからだ。
今年の産地の天候を見ていると、
これは日照り不足のパターンだ。
強烈な天候不順型でなくとも
平年作を下回る程度と予測する。
上の親分
(中央商品はマルブツ
大沢氏のビル一階で親分とは大沢氏のこと)も
七千円割れは積極的な強気だ。
近ごろは馬(大沢氏の持ち馬)も好調のようで、
おやっさんが(相場で)調子が悪い時は
馬も走りよらんが、結構成績よいところを見ると
相場も手が合っちょるようだ。
伊藤善一氏は名古屋弁まるだし、
昭和七年生まれの火の玉社長。
玉にキズは広告料をしみったれてケチる事で、
この悪癖さえ直せばもっと出世する。
誰彼れ聞いてみると
一万七千円割れからどなた様も買いたい人気。
だから一万七千円を深く割らない
と見る事も出来るが、
割ったらドカ下げだと見る事も出来る。
ここのところが相場の曰く言いがたしの微妙な綾で、
岡安商事の神戸ゴム仕手戦の裁判で
筆者が証人台に立って
相場の綾の曰く言いがたきところを
裁判官にいろいろ説明したが、
売るから高くなり、買うからお安くなることが
賢明な裁判官殿も、理解出来ないという顔つきだった。
その点、小学校だけしか出ていなくても
相場の世界に長くいる人は、
そんな事は日常茶飯事の常識である。
下げたら買えばよい、
下げずんば見送るのみ。
などと悟りきった顔をしていると
相場は皮肉に走り出す事もある。
もう少し逆張り時代。
●編集部註
さらっと書かれてはいるが、
結構生々しい記述が続いている。
長くこの記述を読んでいて面白いのは
意外な人物が商品相場と関わりを持っている事。
ネットでは相場のその字も出ない。
【昭和四九年六月一七日小豆十一月限大阪一万七〇三〇円・一九〇円安/東京一万七〇〇〇円・二三〇円安】