昭和の風林史(昭和四九年四月二五日掲載分)
今年から明年にかけて小豆は
昭和最後の大相場が展開されるであろう。
二万円時代である。
「かきつばた似たりや似たり水の影 芭蕉」
相場の高値は更新されるためにある。
押したら買おうが、押しても買わない。
これ即ち迷いである。
迷いから出た錆というものを
相場したことのある人なら皆持っている。
錆びないために手入れをする。
錆びない刀剣なんかステンレスである。
ステンレスほど味のないものはない。
迷いから出た錆こそ相場人の勲章だと思う。
槍は錆びても心は錆びぬ。
誰だい横から話の腰を折るのは。
小生は多忙である。神戸に行って、
名古屋を日帰りして、月火水と東京で、
休みがやたらと多いので稼ぎにならない。
当社は目下全社あげて
販売拡張のキャンペーンを行なっている。
印刷代や紙代は目玉が飛び出るほど上がった。
だが業界全般を眺めれば、
いま購読料を値上げする環境ではない。
よって紙数をふやし、購読料を引き上げないでも
経営が成り立つように努力している。
コストアップを製品に転嫁しないという方針を、
どこまで続けられるか、これは努力以外にない。
思うに繊維相場全般が、どうもいけない。
今年残された相場は
小豆一本に絞られるだろう。
しかし、まだ投機家は帰ってこない。
商社等の買い占め売り惜しみ事件が
記憶に生々しいあいだは
投機家も近寄り難いのだろう。
しかし、相場というものは
ひとたび熟すれば狂す。
いかに冷静で思慮深い人でも、
あのトイレットペーパー騒動の時や
砂糖騒ぎの時には
一緒になって踊ったではないか。
要は、あのムードだ。
本年の小豆相場は
鬼神もこれを避けて通るばかりの
熱狂、怒濤、狂乱が展開されよう。
従って筆者は
「拝啓 穀取市場管理委員長殿」と
今からご注意をうながしておきたい。
外交文書式に書けば
〝貴市場管理委員長陛下に対し
厳重なる注意を喚起する栄光を有す〟などと。
ともかく大変なことになるだろう。
人々はまだ安心している。
天候相場までには、日数がある―などと。
相場は待ってくれないだろう。
左様、昭和最後の大相場が展開されるのだ。
●編集部注
この年、欧州情勢に春の嵐が吹き荒れる。
四月二四日、
当時の西ドイツ首相、ウィリー・ブラントの
秘書であるギュンター・ギヨームが
東ドイツのスパイとして逮捕される。
翌二五日、ポルトガルではクーデターが発生、
長期独裁政権が倒れた。
【昭和四九年四月二四日小豆九月限大阪一万七三一〇円・三二〇円高/東京一万七二五〇円・三九〇円高】