証券ビュー

森羅万象

クアラルンプール10日発 ふーりん東南アジアを飛ぶ (2016.03.25)

昭和の風林史(昭和四九年三月十九日掲載分) 鏑木発信
来るときに持ってきた手許の温度計は
34度を示している。

時間がだいぶ余ったので
ガイドさんが気の毒という顔で

クアラの市内見物を提案。
戦勝記念塔(共産ゲリラとの戦い)、
博物館、回教徒寺院等を回り、
夕方からの加商、野村貿易の現地駐在員を招いての
夕食時の懇談会に皆が期待していた。

★連絡不充分でヤキモキ
一方この商社駐在の方との打ち合わせ連絡が
まったく出来てなかった。

東ゴム取の内田氏は朝から躍起になっている。
オフィスに電話しても、
われわれが来ることを知らないようだ。
目的の人は出張して不在。
手違いと言うものはよくあることで、
誰が悪いわけでもない。

八方手を尽くして、
やっと加商の庄司孝夫支店長と連絡がついた時は、
もう夕食の場所に集合している時だった。

ホテルから少し離れたところの中華料理店で、
食事の終わるころ
内田氏がその方と一緒に入ってきた。

庄司氏は突然のことでびっくりしている。

いま遠い所で仕事をして帰ってきたところで、
これからもう一件の仕事が残っているとのこと。

われわれを気の毒に思ってくれたのか、
それでも気持ちよく四、五十分
マレーシアのゴム事情の説明を行い、
次次と出る質問にきわめて配慮した応答を行なった。

★爽快!イポーの朝雨
いま、この原稿はイポー(マレーシア第三の都市)の
相模工業有限公司を訪問すべく、
ゴムの樹の中の一本道の幹線道路を
フルスピードで疾走しているバスの中で書いている。

昨日の不快な出来事は
明け方からの雨で洗い流されたように見受けられる。

日本軍がこの道を南下して
シンガポールに向かったという道である。

冷房のよく利いた快適なバスは
時速65~70マイルで突っ走る。
市内を出ると速度制限はない。
およそ時速一〇〇キロである。

さすがゴムの国、
アスファルトには〇・二%のゴムが
含まれているそうで、タイヤの摩擦音が違う。

★かつての道を今北上
第25軍山下奉文中将率いる第五師団、
久留米の第十八師団、
近衛師団の精鋭五万の将兵が
シンガポールを目指して進んできた道を
われわれのバスはいま北上している。

ミルクコーヒー色をした川を渡る橋には
銃弾の跡が残っている。

12月8日コタバル、シンゴラ、パタニに
上陸して南下した日本軍の中に
自転車部隊があった。いわゆる銀輪部隊である。

話によればこの自転車のタイヤが溶けてしまい、
リムだけで走るため、
その音が大戦車部隊が来るように響いて
英軍は驚いたそうだ。

★〝客車〟青々緑色新!!
バスの中では誠和商品の小林十七八氏が
持参したサントリーのオールドウィスキーが
回し飲みされ、
これも小林氏持参の奈良漬や
大根の糠漬けその他数種の漬物が歓迎されている。

これから訪問する相模工業は
人口問題で悩める人類にとって、
特に東南アジア等後進国には
必要不可欠の製品を造っているいるゴム製品の工場である。

窓外の緑は体に染まりそうに鮮やかだ。
雨もあがったようだ。