昭和の風林史(昭和四九年三月十四日掲載分)
小豆相場は買いのまま。
上昇波動の中段もみ。
それとも一服?。
上放れるための支援材料待ち。
蛇ににらまれた蛙のように身動きできない小豆相場だ。
陰々鬱々、もっていき場のない欲求不満が嵩じると
ヒステリー症状を呈すというが、
その気力も衰えたのでは、もはやお手上げで、
どうしようもない。
それとも食い合い玉は増える一方で、
取り組みは各地市場合わせて十五万枚を突破、
年初の水準に迫りつつあるところを見ると、
お互いに譲らず火花を散らして睨み合いの最中か―。
それにしても三十年ぶりに
ジャングルの奥地から帰ってきた小野田元少尉の
眼光の鋭さはどうだ。
敵の陣営に降伏するより一死もって祖国に殉じ、
捕らわれより舌を噛み切り、銃剣を胸に突きさす―。
汚名を残さず指名を全うする、
悲しいまでの〝武人〟ぶり。
気の遠くなる歳月が流れる。
文明社会に毒された眼からカッコよく映るのも当然であろう。
米国でいまハヤリのカッコよさは
裸で突っ走るストリーキング。
対照的といえばあまりにも対照的。
飛行場で親子の三十年ぶりの対面。
間に割り込む代議士センセイ方。
人情の機微を解するより
参院選と〝票田〟しか頭にないようだ。
そのセンセイ方、物価抑制のゼスチュアも大きいが、
衣の下から鎧がチラリ、チラリ。
石油製品、電力料金…止めて止まらぬ〝四・三の手〟。
春闘による大幅ベースアップ、海外一次産品の高騰、
「経済原則に逆らうことはできない」と
冷ややかな眼で見ているのは一体だれなのか?。
東穀取の代行にブラ下がったヒネ小豆七百枚余りは
その後引き受け手もない。
納会でクレームがつくシロモノばかり。
とはいえ残りものに福あり、
新穀に比べても格段に安いことに変わりはない。
ズッと以前のことだが、ヒネを産地に逆送、
新の等外品と混ぜ合わせれば
「新三等」の一丁出来あがり―
という話を聞いたことがある。
二者択一主義者に向かない目下の小豆相場。
別にあわてることもあるまい。
上昇波動の中段もみ。弾みがつくまでの辛抱である。
●編集部註
戦前戦中派と戦後派とで
ルパング島から生還した小野田さんに対する見方が違う。
書き手の背筋がピシッと伸びているように行間から感じる。
この年に戻ってきた小野田さんは
ブラジルに移住して農園を経営。
2014年1月に日本の地で息を引き取った。
【昭和四九年三月十三日小豆八月限大阪一万六七七〇円・二〇円安/東京一万六六〇〇円・五〇円安】