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森羅万象

わが友人たち 硝煙にまみれた (2015.12.16)

昭和の風林史(昭和四八年十二月七日掲載分)

陽気で淋しがり屋で少し怠惰で、
全く勤勉なわが友人たち、
彼らは悲哀を知り、そして誇り高い。

「泣き伏せる狂女に都鳥飛ぶも 友次郎」

商品セールスの泣く声は
グラスに溶ける氷の音である。

筆者は、多くの商品セールスを知っている。
ここでいうセールス・マンとは、
すでに相場のなにかを充分に知り尽くし、
硝煙なき線上で、死闘の戦いをくぐり抜け、
心の中に
二ツも三ツも
深い弾痕を持っている人々のことである。

商品セールスの勲章は
創業十五周年とか
二十周年にもらうような目に見えたものではない。

グラス傾け、一人飲む夜に
疼(うず)く古い傷痕の数と大きさである。

彼らは陽気だが常に孤独である。
名が知られるほどの大きな投機家のそばには
明るく活動的で勤勉なわが友人たちが
常に控えている。

そして彼らは、
市場情勢については
相場記者など及びもつかぬほどの材料を
いつも背広の左側の内ポケットに
無雑作にしまってある。

彼らの特色は、
コーヒーを幾杯も飲むことである。
そして彼らの生き甲斐は
自分の持つお客さんに巨大な利益を挙げてもらい、
大きな売り玉や買い玉を、
店頭で、やや控え目に、
そしてまったく無表情に、
賭博師の手のような細く長い綺麗な指で、
サッと場電係に注文を出す時である。

彼らベテラン・セールスを見ていると、
その建て玉が苦しい時は
お客さん自身以上に苦しんでいる。
そして戦いは常に有利に展開するとは限らない。

わが友人の多くは
月収一千万円を超える人も多いけれど、
自分の収入は、東証ダウ平均のグラフよりも
もっと気ままな下降線を辿るという事を
知っているから生活はつつましい。

ある時は喜び、叫び、憤慨し、絶望し、沈潜する。
だが彼らは死なない。

折れた軍旗を再び高々とかかげ戦場に向かう。

だが、彼らはカウンターの片隅で泣く。
破れたもののみが知る悲哀である。

その声はグラスに溶ける氷の音である。

師走の風は生ぬるくとも
彼らに焦燥感を吹きつける。

年内余白。
わが戦友たちは
今年一年を硝煙にまみれまた幾つかの勲章を得た。
彼らは勇者である。
ボロボロに破れ去っても葬送曲は口にしない。
いや、破れれば、破れるほど胸を張り
第七騎兵連隊のマーチを歌う。

勝利あれ
わが戦友。

●編集部注
 私事ながら現役時代、
周囲にかくの如き伊達者は数人しかいなかった。

 ガムテープで
受話器を固定した人間こそいなかったが、
がらんとした営業部の部屋に、
机にもぐった男達の
くぐもった大声が響き渡る―。
それが、配属初日の光景であった。

【昭和四八年十二月六日小豆五月限大阪一万五八九〇円・一三〇円高/東京一万五八〇〇円・五〇円高】