昭和の風林史(昭和四八年九月十日掲載分)
もう弱気はしないほうがよい。
下値は残そうが
秋名月に買いの種蒔け という言葉もある。
「西鶴忌うき世の月のひかりかな 万太郎」
九月八日土曜日、白露。
白露は処暑の後十五日目。
陰気ようやく重なり、露凝って白し。
二十四気の一ツである。
この日、小豆相場は下寄って急反発した。
東穀では一節の出来高九千七百七十二枚。
S安、S安で商いが出来なかったため、
投げるに投げられぬ玉が、
売り方の利食いと
値ごろ観による買い玉とぶつかって、
大商況となった。
目先的には、この大商いで
相場はカチーンと音がした。
あまりにも急で激しい崩れに、
投機家はもとより取引員の中で
資金面を心配される噂がパッと広がった。
土曜日もS安なれば、
憂慮される事態が発生したかもしれない。
この日〝道移輸出農産物協会〟主催の懇談会で
小豆六万五千三百ヘクタール、
反収二・八六俵。収穫予想五十四万俵
という数字が発表された。
豊作である。
特に手亡の三・三五俵は
大豊作の数字である。
小豆相場は
仕手筋の手持ち現物のヘッジ売りで
再び戻りは売られるし、
豊富な在庫と百八十七万俵収穫を
売る場面があるだろう。
しかし、ほぼ、値段は
とどくところに来ている。
あとはジグザグで底値を構成するか、
猛一発ドカ貧で安値を叩くかであるが、
要は日柄の目(め)を数え、
パニック状態から心理面のショックを脱しなければならない。
玉整理→ほぼ完了したと見る。
人気→戻り売り気分。
材料→ホクレンのタナ上げ待ち。
仕手筋手持ち現物の動向。
日柄→大天井七月11~13日から三カ月を要しよう。
値段→ほぼとどいている。
従って、これからは大底打ちを待つ。
強気するのは大底を確認してからでも遅くない。
それにしても市場は荒れ果てた。
台風一過の感じである。
お客も店もいたんだ。
いうならこれからは終戦処理である。
復興であり建設である。
下値は残そうが、
もう弱気はしないほうがよい。
秋名月に買いの種まけ―という言葉もある。
●編集部注
この当時の風林火山は四十代で、
秋刀魚なら脂が乗り切っている状態。
曲がり屋なら
゛講釈師、見てきたやうな嘘をつき〟となり、
当たり屋なら千里眼となるこの場面。
やはりこの人は持っていた。
東京小豆日足に塔婆が立つのはこの週である。
【昭和四八年九月八日小豆二月限大阪一万一八八〇円・二五〇円高/東京一万一七一〇円・一二〇円高】