昭和の風林史 (昭和四七年九月十二日掲載分) (2014.09.17)
いまからでも〝売りだ〟というよ
現物事情を見ておれば、
この小豆、売り余地充分という。
市場は戻り売り、突飛高売りの空気。
「もの言いて露けき夜と覚えたり 虚子」
京丹穀物の田中育造常務の話を聞いていたら
現物筋は春の交易会の高値掴みになって、
安い新穀が出回ってきても、
なかなかそちらのほうまで手がまわらない。
だから製餡筋にともかく、どんどん使ってもらい、
また雑穀業者も小豆は安いものだと
大々的なPRを行なって消費しないことには
来年一年は小豆がダブつく。
秋の交易会で今回は一俵も買いません
という義理の悪い事も出来ないだろうし―と。
田中育造氏は、いい事を言う。
取引所の定期相場が無かったら、
相場はこんな値段を維持出来ないだろう。
われわれ現物屋ばかりだったら
六千円も付いた値だし、五千円も相場かもしれない。
もっとも取引所がなければ
去年の二万一千円という相場も付かなかったかもしれない。
初めてお逢いしたが、京菓子業界の事、製餡業界の事、
京都祇園富永町の事、道楽という道楽に極道の話、
高座に上がって一席やっても銭になるだろうし、
宴席で太鼓たたけば結構それが芸になっているだろうし、
お酒がはいらないでこれだから、
京丹穀物の常務なんかにしておくのはもったいないと思った。
田中氏は、小豆の下げはこれからですよ―
というような顔つきであった。
九日の穀物澱粉生産流通懇談会で
小豆百八十九万俵。手亡五十二万俵収穫予想の発表があった。
この数字は九月六日に発表され、
すでに相場に響いているため、
九日の正式発表は念を入れただけに
終わり相場のほうも、さして表情は変わらない。
一般に、小豆相場は戻り売りでよいという考え方が支配していて、
旭川の温度が下がろうと、
仮りに降霜を伝えて夜放れ高しようと、
まあ高いところは売っておけの気分。
さればと手亡をふりむけば、
まだこのほうが先に行っての期待が持たれるようで
①穀物市場が閑散になる②業者が悲鳴をあげる
③悲鳴をあげても、それでも超閑散が続く
④どうだい―と、いう空気になる。
なんとかならんかいの愚痴
⑤手亡でもやろうか―となる。
だから手亡がいいという。
しかし、手亡がよくなるには
前記の如き道順を踏まなければならないからもっと先の事だろう。
●編集部注
気配を消している。
相場記事なのだから当然なのだが、
書き手が風林火山となると話が違う。
こんな時は普段なら、
ワルキューレの騎行が聞こえてくるような勢いで、
自ら率先して相場のロジ ックを積み上げている。
和光同塵の構えなのか。
それとも〝燃え尽き症候群〟の類なのか…。
【昭和四七年九月十一日小豆二月限大阪八〇九〇円・変わらず/東京八〇八〇円・一〇円安】