証券ビュー

森羅万象

昭和の風林史 (昭和四七年八月十五日掲載分) (2014.08.22)

がっくりして   コツンと底入れ

小豆も、このあたりから買えば、なんの苦労もあるまいに。

小の文字の送り火でもするのがよい。

「あえかにもあはれ大文字の一度きり 妙子」

小豆相場は新穀限月で八千四、五百円あたり。

一様に〝止まるだろう〟と見る値段が絞られてきたようだ。

末端の値動きも

秋の需要最盛期を控えて活発になる。

作柄のほうは、平年作を上回る―

という線でかたまりそうだ。

作が決まれば決まったで

妥当と見られる相場価格で落ち着く。

それは、豊作織り込み済みという言葉で表現されよう。

そして豊作に売りなしと人々は言う。

内部要因のほうは整理されるべき玉は、

すでに整理を終わった。

いうなら、枯れきった心境の相場である。

日柄の、これだけにわたる経過は無視できない。

論語に「鳥の将に死なんとする、その鳴くや哀し、

                 人の将に死なんとする、その言やよし」とある。

相場のまさに底入れせんとするや、

その姿静なりといえるかもしれない。

思うのである。

相場もこういうところから買うのなら、なんの苦労もない。

いまだかつて、下げっぱなしという相場はない。

この小豆相場も、いずれは底入れして反騰する。

このあたりから秋名月に買いの種蒔け―で、

ぼつぼつ買っていけば、気も疲れず、

むしろ楽しみが持てる―というわけであるが

孝行をしたい時に親はなく、

大底が見えた時分に資金なし―で、

世の中は、実にうまく出来ている。

流す涙がお芝居ならば、

何の苦労もあるまいに、

濡れて燕の泣く声は

あわれ浮名の女形―

売っちゃいけない、買わねばならぬ、

仇な建て玉気迷い舟を

乗せて流れて何時までか、

苦労するのは相場だもの。

東海林太郎が哀調こめて唄っていた。

先週土曜と今週月曜の放れた二ツ星。

いわゆる投げ捨て星。

星一ツが二等兵。二ツで一等兵。

金線一本通して伍長に軍曹。

赤線一本立てるか、黒線一本垂らすか。

大阪市場でも売り大手が

積極的に手仕舞いを見せている。

おりから明日は京都の如意岳での

大文字の送り火が焚かれる。

当方は大の字ではなく

小豆の小の字の送り火でもするか。

大文字のがっくりきえや東山―。

●編集部注

〝いまだかつて、下げっぱなしという相場はない。

この小豆相場も、いずれは底入れして反騰する〟

と言う文言は、全ての相場に共通する。

まさにその通りで下がれば上がる。

しかし忘れるべからず。

「コツン」という音は、

相場が底入れした時にだけ鳴る音ではない。

曲がり屋の心が、完全に打ち砕かれる時にも

「コツン」という音は鳴り響く。

【昭和四七年八月十四日小豆一月限大阪八六八〇円・五〇円安/東京八六九〇円・九〇円安】