昭和の風林史(昭和四七年五月十八日掲載分) (2014.06.02)
売りのままで 値の崩れを待つ
相場の力が抜けつつある。
一万一千円割れである。
上値に二本出現した暴落線が効力を発揮する。
「軒浅き夕あかりに糸取女 虚子」
商いが糸のように細っている。
実感のともなうような上値目標値段も、
また、下値目標も聞かれない。
季節は風も光も緑に染まり、薫風楡の大樹をよぎる。
すでに取引員店頭には
北海道の天気と気温が記入されているけれど、
播種→発芽までには今一刻の間があり、
交易会は終了せるも、
およそ小一万㌧成約の数字は相場に織り込み、
成約数字を基(もと)に高下する場面は終わった。
あらたに売らず、強烈に買わずの各節は〝静〟にもどった。
人々は、ここでなにを思い、なにを考えるか。
そうである。これからの大局だ。
小豆相場に対する根本姿勢とでもいうべきか。
私は、天候相場に賭ける買い一貫で行く。
それもよろしい。私は需給の緩和を重視する。
天候は五分と五分。
いや、本年は平年作と見る。売り一貫でで勝負する。
それも可なり。
相場の強弱は自由。
静(せい)なること林の如く、動かざること山のごとし。
それもまた相場である。
線型は静なる中にあって下落を示している。
明らかに悪型である。暴落線二本。
これが必ずひびいてくる相場である。
人々は暴落が現実となって、あらためて知る。
いかにこの相場が重いものであるかを―。
天候相場とは高いばかりではない。
順気、順気で値が消えることもある。
輸入品は、だぶつくし、
府県産は増反で、作柄も非常によろしい
となれば大量在庫をかかえて、
穀物出回り期を前にすれば、
いかなる買い方も気が持てない。
しかも伏兵の如くコロンビア小豆が輸入されてくる。
十月限は輸入小豆の最終的ヘッジ限月となるし、
五月、六月の消費量に期待すべきものがないだけに、
理想買いのとがめは、およそ必至である。
聞けば、北京商談でも、
日本側に買う気さえあれば、
中国は売り応ずる小豆を保有しているそうで、
定期の一万二千円には、
ガッチリと制御装置が設置されているようなものだ。
およそ一万一千円割れという場面。
あるだろうし、あるべきだ。
品物が欲しくて買っている買い方ではない。
成り行き上、買っているだけである。
●編集部注
罫線は手書きに限る。
小豆相場にはもう一つ、気温の罫線が存在する。
よく書かされたなぁ。
【昭和四七年五月十七日小豆十月限大阪一万一二九〇円・一九〇円安/東京一万一二三〇円・二七〇円安】