7~9月パート2 医学生物 7月19日 (2011.07.15)
レポートスペシャル
ポスト・ゲノムの初動
新本社、新社長スタートダッシュ
医学生物学研究所(4557・JQ)は出直り。切り返す公算が大きい。2011、12年にわたるもので、今期は新本社、新社長のもとスタートダッシュ。6月20日、中国バイオテク最大手との業務提携発表で幕が上がった。当初、新薬寄与が見込まれる福島の連結子会社が被災。東電の第一原発から60キロとあって心配したが、1Q個別推定4%増収のほか連結も予想以上の模様。新会長、新相談役もバックアップに回っている。このため、1Q発表(昨年8月12日)、中国最大手と本契約を交わす9月末にかけて人気化。震災や原発事故に伴う落ち込みを取り戻すとみられる。佐々木社長(57)はプロパー。91年から企画、営業、海外、開発企画をこなし何でもござれ。「グループの技術を事業化する一方、米国(連結子会社2社)と中国(同1社)を結びグローバル化を実現する」と意欲的。同社が国内外に知られたのは、2000年に米ベンチャー「セレ―ナ・ジェノミクス」がヒトゲノム解読を発表し、遺伝子解析がオーダーメイドや再生治療など夢の新薬開発を促すと伝えられ、上場来高値1万7000円をつけた時から。同年2月、ファージを使用し「ヒト抗体」を効率よく取得する技術「ファージ・ディスプレイ法」を確立。特許申請したため人気に拍車がかかった。連結子会社の抗体研究所をリードする藤田保健衛生大の黒澤教授による抗体ライブラリーも出色。がんや感染症疾患の治療に光明を見出すのもで当時3万円相場といわれた。08年、理化学研究所がシーケンスにより日本人男性の全ゲノム配列を高精度に解読した旨を論文に発表。今年6月、富士通が理化学研究所と共同で京レベル、世界一のスーパーコンピュータを開発したと伝えられのも新たな手がかり。市場では、09年からポスト・ゲノムの初動が始まった。
ちなみに、中国生物技術集団との提携。2~3年ないし4~5年で具体化。スケールも予想以上とみられる。相手は中国医薬集団の子会社で予防ワクチン最大手だが、連結売上高約600億円、従業員も1万人規模。同社の約60億円、350人に対し途轍もなく大きい。それも、自己免疫疾患のほか感染症、がん及び遺伝子検査、国内で実績のある臨床検査薬のノウハウなど得意分野の共同開発が最大の魅力。中国では抗体の供給元がマウスといわれ、抗体研究所のライブラリーに白羽の矢が立つのもうなづける。6月20日、情報開示直後一時ストップ高になったが、なるほど市場の読みも鋭い。中国側が高く評価しているわけで、これまでにないビジネスチャンスとみられる。
全自動臨床検査システム「ステイシア」も支援材料。三菱化学メディエンスとタイアップしたもので、少なくとも30億円程度のマーケット。1台1500万円といわれ、7種類測定方法のフルランダムアクセスが特徴。血液・感染症・免疫項目の専用装置として最大270テスト/時間の処理能力がルーチン検査で威力を発揮するという。スタッフ15人、営業も50人動員し年内にめどをつける見通し。さらに、福島の連結子会社が開発し、3月30日保険収載されたKRAS遺伝子変異検出キットも期待材料。大腸がんを対象に治療薬投与の決め手になるコンパニオン検査薬。国内初の保険適用とあって今期からフル寄与。4~5億円の市場が見込まれる。大腸がん治療で抗体医薬の効果予測が事前に素早くできるようになった。このほか昨年5月保険適用された血中lgG4測定試薬、同8月新発売の多発性骨髄腫新規マーカーも本格化。震災を受けて慎重だが、早々増収を確保できる見通し。震災直前の3月10日、米国エンボイ社にRIP‐Chip技術のライセンス供与を発表。一時ストップ高になったのも初動のひとつだ。
11年3月期(連結)は、3%増収、18%営業減益、39%経常減益、純損1億1200万円。計画を下回った。昨年11月2日、4月15日の修正発表によるもので、見込みより減収と事業再編損が主因。自己免疫疾患検査試薬が28億円(2.5%減収)にとどまった。12年3月期(連結)は、売上高65億1800万円(4%増)、営業利益3億4700万円(12%減)、経常利益2億3300万円(19%増)、純益1億8600万円の見通し。配当は期末4円を据え置く予定。研究開発費が19%前後を占め高水準。よくこなしている。09年(40周年)を節目に今、来期もう一皮むけるところ。製薬大手の新薬不足、特許切れ続出、ジェネリック台頭など混沌としているだけに面白い。社運を調べると、昨年安定し今年上昇運。来年から3年見どころという。新本社、新社長による最初の3年が肝腎。7~9月スタートダッシュパート2。今年、来年が将来を左右しそうだ。