証券ビュー

新刊・書評

書評 2012年1月5日 (2012.01.04)

徹底検証 日清・日露戦争 (文春新書828 本体830円)

カットされ雑誌に掲載

記録のすべて速記から一冊に

 

09年の秋も深いころ、文春臨時増刊「坂の上の雲」と司馬遼太郎のために、2日にわたる長い座談会を行なった。12月刊行された雑誌には、残念なことに半分以上カットされて掲載となったが、文春新書編集部がもったいないと記録のすべて速記から活かし一冊にする企画をたてた。まとめられたものを読み直し、もう一度世に問うだけの価値があると喜ばしく思った。以上、半藤一利による初めにひと言のくだり。権威5人の白熱議論20時間。中国とロシアがいまだ日清・日露戦争の無念を晴らそうと、尖閣や北方領土をたてに日本の泣きどころを突いてくる。日清118年、日露戦争から108年数えるが、3、4代にわたり語り継がれた無念のきわみ。晴らすまで消えそうにない。それは、1600年関ヶ原で敗れ潰走した薩長土肥が、267年後維新に成功。無念を晴らした経緯と同じ。日本人の方がしつこいかもしれない。このため、勝ちいくさで都合の悪いところをカットしたり、粉飾した場面を巻き戻し。従軍戦記として事実、真実に迫る当時の肝腎なシーンを再現。5人ともつぶさに見てきたような話しぶりが面白い。後世伝えられる美談がつくり話であることもよくわかる。

書評  ニッポンの底力  10月11日 (2011.10.10)

何もかも失って底力

米国のバトン引き継ぐ日本

講談社+α新書

町田宗鳳著   838円税別

偶然から生まれた本という。3・11をきっかけに比較文明論の立場で日本を検証。今後の展望を述べたもので、思ったよりいい出来映え。学者だけに現場知らずだが、14で出家し20年京都大徳寺で修行。34の時米ハ―バード、ペンシルべニア大でも神学の博士号を取得した変わり種。プリンストン大、シンガポール大、東外大などで教鞭をとり著書多数。江戸時代の禅僧で至道無難の「死んだつもりで生きるのが一番いい」を紹介し、「生きているだけでいいんです」という。目次は、第1章復元力をもつ日本文化、第2章フクシマは文明の折り返し点、第3章日本の進化に不可欠な首都移転、第4章母系性社会と女の力、結びに第5章アジア文明の夜明け。米国から間もなくバトンタッチを受けるアジアの中で、文明を引き継ぐのは日本というものの、国民がその役割を自覚しないと実現しない。そこで「フクシマ・プロジェクト」を立ち上げ、既存エネルギーのほか太陽光や風力地熱・バイオマスなどポスト原発。日本で新産業革命を起こせと呼びかける。そもそも、底力は何もかも失ってから出てくるもの。日本の神々は、人間以上に人間的な愚行をやってのけると笑わせる。

書評   お金は紙だ   6月22日 (2011.06.22)

 

マスコミとお金は
 人の幸せを
  こうして食べている

 THINKER 徳間書店   税込み 840円

 

初刊がクリーンヒット 
 国際銀行家に迫真のアプローチ

  
09年、名古屋を拠点に立ち上げた市民グループTHINKERの初刊。クリーンヒットになった。11年3月、5次元文庫に入り異彩を放っている。情報収集、執筆、企画、編集、デザイン、映像など分担。デビュー早々、一皮むけた印象である。代表が1970年生まれだけに成長より熟成の楽しみ。3・11から世の中が一変し、第2、3弾に期待がかかる。内容は、19世紀以降世界史と日本史200年の総括。歴史は勝者の記録といわれるが、新聞やTVなどマスメディアの伝える事実と真実のギャップを埋めた。現代社会を知るためのエッセンスを詰め込んだという。キーになるのがお金とマスコミ。この二つをたどっていくと、驚くほどはっきり世界の全体像が見えてくるという。ショッキングな内容もあるが、現状を知り認識を新たにすると、次の心構えができる。目次を見ても、隠されてきたお金のからくり、これまで国際銀行家がしてきたこと、国際銀行家ってどんな人、さらに国際銀行家がつくり出す世界統一政府など迫真のアプローチ。結びの第6章、これからの時代をどう生きるか。解答例も新鮮でよくわかる。忘れてならないのは「お金は紙だ」と力説。古代主流だった銀貨から、中世ヨーロッパで預り証による紙幣の始まり。事実上通貨発行権を握ったロスチャイルドとロックフェラーのてん末が興味深い。文庫本で400ページを超えるボリューム。維新、敗戦、東日本大震災にも通じており、日本を取り巻く情勢もあらかたわかってきた。「マネーの支配者がこれまでの歴史、現在の世界をつくった」のである。