「渡御前の鹿追うてゐる舎人かな」 橙青 (2017.03.15)
昭和の風林史(昭和五十年三月十一日掲載分)
手亡期近危険 新穀入荷微量で
新穀の入荷が、まったく少ない手亡相場の
前三本が時によると爆発するかもしれない。
「渡御前の鹿追うてゐる舎人かな 橙青」
丸五商事の講演会で同社の伊藤徳三社長は
『三月、四月、小豆相場は、
まだまだ走り出す環境ではない。
もとより先行きの値段は、高くなっていくだろうが、
自分の買っている限月が騰がるのではなく、
新ポ、新ポ、サヤで高くなるのだから、
相場の居所は変わると申しても
そのこのところを良く考えて欲しい。
目先的には一万七千五百円あたりから
軽く売ってもよいと思う』―。
また手亡については
『手亡の将来は
悪役のピービーンズ圧迫ということになろう。
最終的に一体誰が受けるのか。
現在言われていることは、
十六万枚という大取組の中の僅かなピービーンズは、
それほど気にする必要はないというが、
冗談ではない。
ピービーンズをどこで打ち切るか?。
10月か、それとも12月か。今の格差二千五百円。
一万三千八百円からこれを引いて一万一千三百円。
誰が一万一千三百円のピービーンズを受けましょう』。
『しかし、手亡の新穀入荷は
全消費地で現在一万俵しかない。
ピービーンズ一万俵として、
今来月は、さあ受けましょうという筋が出現したら、
これは大変な事になる。
私のところで手持ちしている新の手亡は、
今月は渡さない。
来月、名古屋に持っていく。名古屋の城を固めるのです。
だから大阪と東京はアキ屋になる。
手亡の三月限が無事なら四月限、五月限に
全神経を配らなければならない。
もちろんこれから新穀手亡は
徐々に入荷してくるでしょうが、
刻々移る数字に注意して欲しい』―と。
伊藤徳三氏は
『黒板に書いていない限月
(今なら九・十・十一月限のこと)を考えよ』―という。
筆者は『小豆相場で億の金を掴もう』という題であった。
伊藤さんは、億の金は、ちょっとや、そっとでは掴めない
―と安易な考えをいましめた。
左様。
当てづっぽや単なるケイ線張りでは億の金は握れない。
厳密な需給の数字、的確な将来の読みが必要である。
数字、数字、数字―。伊藤氏は数字を追えと言った。
そして億の金を掴むなら〝伊藤道場〟で修業してください
と商売のほうも忘れない。
さて、相場のほうはどうなるか。
手亡の四、五月限狙い。小豆の先限買いが妙味大。
●編集部註
相場の動きをどう見るかは千差万別。
罫線で見る人もいれば、
場帳で数字を追いかける人もいる。
前者がアナログ的、
後者がデジタル的な相場の見方といえよう。
【昭和五十年三月十日小豆八月限
大阪一万七千四百九十円・八〇円高/
東京一万七千五百五十円・七〇円高】
昭和の風林史(昭和五十年三月十日掲載分
大器晩成型か 芯の疲れる相場
これは感じであるが、出発、発進が近い―というものを感じる。
大器晩成型かもしれないが。
「ギヤマンの如く豪華に陽炎へる 茅舎」
黒板も弱い、話しする相手も弱い―
というふうに先週末の相場は買い方お疲れ気味だった。
山大商事の杉山重光社長は
『この半年あまり強気してきた人たちが、
ふらふらにされた相場だが、ここからだよ強気するのは』
『ケイ線の姿のがいいじゃないか、ほれぼれするよ』―
と元帥いよいよ御出陣の構え。
同社の関口明営業部長は
『48年産小豆の圧迫感が薄らいできた。
売れない売れないの二月が案外売れていた。
ホクレン・ダイレクトものがさばけていた。
すそものの荷動きが、ようやく見られだした。
いままでの強気筋が先限を買いきれない市場人気になっている。
移出検査数字が極端に少ない。農家の売り腰は意外に強い。
お正月の商談会で契約した三月積みの荷が
十勝でなかなか集めにくい。
手亡の下落で小豆の人気も冷えたが、
シカゴ穀物相場が底入れ気味でピービーンズも反発しよう。
六月入荷、八月ヘッジの
ピービーンズ背景の売り玉は、ひとまず利食いに入った。
手亡の大取り組みは売り型にとっても
、これから先は火薬を抱いているようなものだ。
まあ、そういうことで、これからが小豆の本番。
七千五百円どころは
ホクレンの売りものを警戒する市場だが、
八千円カイとくれば
ホクレン筋の心理的微妙な変化が相場に反映しよう』。
薄商いのところにパラ、パラと
ホクレンの現物裏付けの売り物が出ると、
やはり買い方は嫌な感じを受けるものだ。
今まで強気を通してきた人たちも、
つい手亡の先限などの地合いにつられて売ってみたりする。
その売り玉が、一、二日もせぬうちに、
ものの二、三百円引かされるということは、
人気の面でも陰の極。
相場の上でも〝いいところ〟に来ていると思う。
『なんだい紙面に元気がないじゃないか』と元帥はいう。
相場同様お疲れさんである。
持久戦の構えでいかないと芯が疲れる。
出たら大きい相場と知りながら、今出るか、今出るかと
手に汗握って息を詰めているところに、
お隣さんがピー崩れしては、がっくりくるのである。
いや、気を取り直して、ほどけたゼンマイねじを、
キリキリ巻きあげなければならない。
●編集部註
読んでみて、当時の常識に新鮮な驚きを感じる。
黒板なのだ。電光掲示板でもなく、PCモニタでもなく、
黒板なのだ。
十三年前、福岡のある商品取引員の相場表は
マグネットであったが…。
【昭和五十年三月八日小豆八月限
大阪一万七四一〇円・六〇円安/
東京一万七四八〇円・三〇円高】
昭和の風林史(昭和五十年三月八日掲載分)
春日遅々たり 大勢は強気一貫
小豆相場はここが下値の限界ですよと言う地点を
何回も何回も見せてくれた。強気一貫。
「さるほどにソラハつきしろ青を踏む 草城」
公定歩合の引き下げは世界の趨勢である。
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昭和の風林史(昭和五十年三月七日掲載分)
時間かかるが 減反買う相場だ
手亡はピービーンズ相場で魅力を失った。
大衆は徐々に見限っていくだろう。
小豆も時間がかかる。
「一人静二人静も裏山に かな女」
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昭和の風林史(昭和五十年三月六日掲載分)
穀物業界期待の手亡相場が崩れて、
また出直しの格好。業界が活況を呈するのは、
もう少し先か。
「水温むとも動くものなかるべし 楸邨」
ピービーンズの値下がりが手亡相場に直接ひびいて
期近二本は惨憺としているが、
七、八月限の一万四千円割れを叩いて、
これが一万三千円を割るというのであれば
また別であるけれど、輸入のワクは限られているし
ピービーンズ値下がり分とドル安分とで
数量を余分に輸入できると言っても、
たいしたものではない。
要は、人気がおびえきっているだけで、
投げが投げを呼ぶ格好だった。
これで大衆筋が、
手亡相場を敬遠してしまわなければよいが
―と懸念するのである。
近ごろの相場を見ていて感じていた事だが、
先日、中井繊維の小倉社長が
『大阪の証券市場の地盤沈下が言われて久しいが、
うかうかしていると商品のほうも、
証券同様関西は地盤沈下するのではないか』
と気になることを言う。
それと同様に、
取引所上場の商品の中で花形的存在であった小豆が
今や取り組みは細り、商いも低迷している。
穀物市場の地盤沈下は一体、
なにに原因しているのだろうか。
人はいろいろ言う。いちいちもっともである。
そして穀物単品業者が
影をひそめていくのも事実である。
大衆の人気が集まろうとしていた手亡。
いうならば、穀物業界としては
金の卵を産む〝ガ鳥〟だったかもしれない。
だが、無残にも潰してしまった。
これが勝負の世界とはいえ、
育つものを新芽のうちに摘んでしまうのは
惜しいことだ。
それだけ世相がせち辛くなったのかもしれない。
いや、業界の底、
即ち取引委の懐が浅くなったのかもしれぬ。
あすの百より今日の五十という傾向が見られる。
こういうことが、更に速度をつけてくると、
いよいよ穀物市場に
大衆は寄りつかなくなる心配もある。
いや、それも相場、これも相場。
相場の世界は
弱肉強食であると割り切らざるを得ないか。
手亡は崩れたが幸いにして
小豆が細々ながら期待をつないでくれている。
せめて小豆だけでも
大衆が納得できる動きをしてもらいたいものである。
しばらくは
〝手亡崩れて山河在り、時春にして草木深し〟
で春眠暁をおぼえずというところか。
●編集部註
昔より大衆が少ない。
これが現在の国内先物市場が大きく反映しない最大の問題点である。
【昭和五十年三月五日小豆八月限
大阪一万七二三〇円・一一〇円高/
東京一万七二五〇円・一四〇円高】