昭和の風林史(昭和五十年五月八日掲載分)
投機すべきだ 値の出ぬうちに
相場のプロは小豆を狙う。小豆相場で億の金を掴もう。
今が好機。あなたは投機すべきだ。小豆に。
「窓ひらく鉄線の花咲きわたり 青邨」
ストにもめげず出てきてみたが―というところ。
相場のほうは閑である。
しかし産地の新穀相場10月限は発会生まれ値から
一気に七百三十円幅を棒立ちして新旧のサヤを買った。
全国的に気象の異常が伝えられるし、
北海道の農耕も十日ないし二週間の遅れが言われ、
前途に不安が感じられる。
相場は、そういう将来の未確定要素を早くも買っている。
ただ手亡相場が、どうしても
六月以降のピービーンズ圧迫を嫌気して、
軟調地合いから抜け出せず、市場全般を湿らす。
いずれ東は東、西は西。
ビギンザビギンで手亡は手亡、小豆は小豆となるだろうが、
人気が本格的に寄ってこないため相場が燃えにくい。
人々は、小豆の取り組みの薄さを気にする。
だが、細い取り組みには凄みというか、怖さがある。
山高きが故に尊からず、取り組み薄きが故に軽視出来ぬ。
肥満体の手亡は、いうならもう若さがない。
焼跡の釘ひろいである。
その点、小豆は痩せたりとはいえ筋肉質だし、
相場に若さがある。
映画の題名式でタイトルをつけるとすれば
〝亡びゆく手亡相場〟。
〝老いと疲労と、そして絶望の手亡〟。
〝若さの小豆〟。〝二万円に挑む〟―。
相場にもキャッチフレーズが必要である。
特に取引員営業の最前線に活躍するセールスは、
四の五の説明するよりも、
ピリッとしたキャッチフレーズを徹底したほうが
アピールする。
考えてみると、わが業界は、
キャッチフレーズをつくるのがへたである。
宣伝、PRが、まったく幼稚だから、
人の心を打つキャッチフレーズなど
考えもつかないのであろう。
手亡相場で尨大な大衆が敗北した。
その一員にピービーンズという輸入豆の相場における存在を、
営業体が認識出来ず、
ただ単に値ごろ観と証拠金の安さのみにとりつかれ、
売りより買いがすすめやすいという理由で相場にのぞんだ。
取引員は、その営業方法を反省する必要がなかったか。
慙愧、慙愧の手亡相場だ。
確かに市場は荒れ果てた。
しかし、いまこそ小豆投機の種を播くときだと思う。
●編集部註
確かに好機はあった。
「赤いダイヤ」が映像化されていた時に
メディア戦略をしっかりと打ち出していれば、
商品先物市場の魅力面が今よりも多く広まっていたかと思う。
【昭和五十年五月七日小豆十月限
大阪一万七一九〇円・一一〇円安/
東京一万七一九〇円・一九〇円安】
「えにしだの黄にむせびたる五月かな」 万太郎 (2017.05.16)
昭和の風林史(昭和五十年五月七日掲載分)
線型上昇暗示 雄大なる相場へ
小豆相場が非常に新鮮に見えてきた。
五月は風光る。風薫るという。小豆線型また光る。
「えにしだの黄にむせびたる五月かな 万太郎」
◇…小豆相場のケイ線が各限とも
有力な買い線になっている事は、
小豆の線を引いている人々は、すでに感じている事だろう。
〔小豆五月限〕(以下いずれも大阪市場基準)
=一万六千円ライン中心に日足11本は短陽線が
仕勝っているこれは上伸を暗示する。
特に五千九百円寄りの25日陽線と、
五月1日五千九百円寄りの陽線は強力な買い線。
〔小豆六月限〕=六千二百円と三百円のところで
ケイ線のあらゆる種類の型が組み重なっている。
この集団線を上放れて五百円カイとくれば早い足になる。
〔小豆七月限〕=基準が完全に変化していることを物語る。
斜線帯75度の下げ波動から離脱し、
上昇初期の肩上がり60度の斜線帯に早くも乗っている。
七千円乗せからの波動が楽しみ。
七千百二十円を抜くと拍車をかけて
一代の高値七千六百三十円をマークする。
〔小豆八月限〕=非常に珍しい線(組み)が出ている。
24・25・26日の三本である。
今のところ八千四十円が付く線型。
七千三百三十円を大引けで買い切ってしまうと、
三月20日(彼岸)につけた瞬間安値(六千百八十円)が
強力な威力を発揮し、
この値を点にして70度の角度で
雄大な相場に発展していくだろう。
週間足もまた素晴らしい。
節(せつ)足も小刻みな買い線が無数に出現している。
一代足は七千百九十円抜けから陽に転ず。
〔小豆九月限〕=三日棒が判りやすい。
日足で七千百九十円、三百七十円抜けが急所になっている。
下り65度、天地三百円幅の斜線帯から脱してV字反騰へ。
すでに充分の買い線。
七千七百円抜けが相場としての重大急所。
買い切って引けると八千円相場に感性があがる。
節足は買いの買い線出現中。
八月限同様に、きわめて珍しい買い線も
四本組み合わせで出ている。天災期の本命限月。
七千五百円まではどこを買っても安心。
〔小豆十月限〕=八千五百円がついてもよい線型。
付いてもよいという事は、
そこまでは現時点で無理がない相場と見る。
以上、線型から判断してみた。
線は神秘である。線は呼びかければ応ずる。
一本一本に生命がある。読みとるべきだ。
●編集部注
エリザベス女王が訪日した翌日、
大阪では地下鉄にラインカラー導入。
主要色を東西で比較すると比較すると面白い。
大阪で赤は御堂筋線。東京では丸の内線である。
【昭和五十年五月六日小豆十月限大阪
一万七三〇〇円・一六〇円高/
東京一万七三八〇円・一九〇円高】
昭和の風林史(昭和五十年五月六日掲載分)
すべては天候次第というスリリングな場面に近づくわけで、
そろそろ投機家も落ち着かなくなる。
「後架にも竹の葉降りて薄暑かな 蛇笏」
穀雨のあと十五夜、きょう立夏(りっか)。
夏立つともいう立夏のあと十五夜、小満という。
万物次第に長じて満つる意。もう夏が来た。
三連休が終わった今週は、国鉄、新幹線、私鉄の
ストが予定され交通機関は混乱しそうだ。
一方では英国の女王陛下の御来日で
きらびやかな歓迎行事が展開される。
フォード米大統領の時とは
比べものにならない絢爛たるものだろう。
フォード大統領の時の宮中晩さん会のメニューは
ツバメの巣のコンソメ。
マナガツオの白葡萄酒蒸し。フオグラ。
牛肉蒸し焼き。サラダ。凍菓。メロンと葡萄であった。
今度も恐らくメニューが発表になるだろうが、
これが楽しみである。
さて相場のほうはどうだろう。
大規模な交通ストが決行されると、
これまでの経験で相場のほうも、ちぐはぐになる。
営業活動が、どうしても停滞するからだ。
そういうことから相場に調子がつくのは
今月中旬以降になるのではなかろうか。
四月末消費地在庫の発表。
北海道三カ月長期気象予報の発表。豆類作付け動向―など、
いずれも相場に影響をもたらす重要発表があいつぐ。
また北海道から農作業の進展状況が
刻々と伝えられるわけで、
小豆相場を忘れた投機家も
そろそろお尻のあたりがムズムズしてくる。
小豆相場は、なんといっても天災期である。
万朶の桜か襟の色の歩兵の本領か散兵戦なら
小豆投機の醍醐味は播種期前の緊張感。
発芽期の降霜。成育期の低温と雨。はえぎれ。
あるいは旱ばつ。土用の天候。病虫害。
開花期の気象。そして結実。
収穫期の早霜、その間の台風の針路など、
まさしく舞台が変わり、手に汗握らすドラマである。
穀物市場の人々は
名古屋の熱田神宮祭(六月五日)時分から
札幌神宮祭(六月十五日)のころにかけて
もう落ち着かなくなる。
さて今年の天候相場は、
どのような興奮が楽しめるであろうか。
仕手の介入もあるだろう。
産地供給量百十三万俵。
消費地在庫二十万俵の小豆。
絢爛たる展開が期待されるのである。
●編集部注
この時、宮中晩さん会の料理を
担当する宮内省大膳寮厨司長は秋山徳蔵ではない。
彼は昭和四七年に引退し、四九年に亡くなっている。
彼こそが後年出版され、
ドラマ化もされた小説「天皇の料理番」のモデルである。
【昭和五十年五月二日小豆十月限
大阪一万七一四〇円・三〇円安/
東京一万七一七〇円・三〇円高】
昭和の風林史(昭和五十年五月二日掲載分)
顔ぶれ揃わず まだ時間かかる
期待はされても、まだ小豆相場にぬくもりがない。
強気にウェイトを老いた逆張りか。
「霧なくて曇る八十八夜かな 子規」
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「暮れて来て植う草花や夏隣」 梅の門 (2017.05.11)
昭和の風林史(昭和五十年五月一日掲載分)
戻りを待つ姿 再度売り場狙い
いずれは小豆に花も咲こうが、まだ少し早い感じ。
手亡は戻りを待って売り狙うところ。
「暮れて来て植う草花や夏隣 梅の門」
メーデー、八十八夜、憲法記念日、
こどもの日、立夏―と続く。飛び休のあとの三連休。
仕事のほうは、もうひとつ調子が乗るまい。
穀物市場は手亡戦争が一段落して、去勢された感じがする。
終戦処理というか、焼跡の釘ひろいとでもいうか、
さしもの大商いの手亡相場の影が薄くなった。
しかし突っ込みは警戒して深追いしないまでも
戻したところは狙い撃ちされる。
ピービーンズ病から離脱出来たのではないから、
閑になればなったで悪さは尾を引く。
水につかった大衆筋の買い玉は、
介錯人がいないと整理がつかない。
ジリ貧相場に日柄をかけて、
徐々に片づけていくことであろう。
次は小豆だ―と気負った気分が市場から消えている。
いずれは小豆相場に花も咲こうが、
これまた時間を要する。
手亡の下げで、ざっと百億円が
買い方の手から売り方のポケットに移った。
ポケットがふくらんだ手亡の売り方が、
どこで小豆を強気してくるか注目される。
穀物相場は怖い。やはり毛糸がよいとか、
綿糸が面白そうだという空気がないこともない。
相場は怖いから面白いのである。
目先、手亡の三百円あるいは五百円の
戻りを想定して、戻り一杯を狙って売りたい。
戻すかしら、
戻り待ちに戻りなしで戻さぬかもしれない。
小豆の線型は意味慎重である。
作付け面積や産地の天候が、
これから切実に影響してくるだろう。
産地は早や十月限の新穀相場である。
昨年の小豆相場は四月中上昇を続けたあとは
五月は一万七千三~五百円あたりでの高もちあい。
この相場が六月の十日を過ぎた時分から七月にかけ、
天候相場らしい動きをほんの少しした。
ここは小豆の押し目待ち。手亡の戻り待ち。
大型連休を控えているため積極的な仕掛けは多分望めまい。
最近の相場癖として月の上旬は高い。
その高値を飛びつくとあと叩かれる。
●編集部註
黄金週間前後の相場には魔物がすんでいる。
それは材料であったり、自分の体調であったり、
何かとしっくり来ない事が少なくない。
恐らく休む期間が中途半端なのだろう。
一~二カ月休んでしまえば良いのだが、そうもいかない。
【昭和五十年四月三十日小豆九月限大
阪一万六九四〇円・一三〇円安/
東京一万六九五〇円・一三〇円安】