昭和の風林史(昭和五四年九月二十日掲載分)
陣雲暗(くらし)五丈原 冷風霜の威も凄く
◇…買い方に味方するものがない。
今月後半は絶望的な下げ場面。
先限二万二千円割れもあろう。
「我宿の淋しさおもへ桐一葉 芭蕉」
◇…商品先物市場、即ち取引所取引きが、
どの市場を問わず低調である。
なぜ、このような状況に陥ったのか、
最近になって業界人は一様に考えるようになり、
その対策を早急に打ち出さなければならない気運になりつつある。
◇…素朴な考え方であるが、業界が停滞している原因は
(1)上場商品の価格変動に投機の魅力がない事。
(2)投機資金が新規20枚というビンの入口を
小さく規制され当業者玉に対抗出来ない事。
(3)本来、投機家の味方であるべき専業取引員が
たえず投機家のポジションと逆の自社玉を持っている事。
(4)許可更新期で専業大手が、
強い行政介入のもとで経営せざるを得ない事。
(5)社会一般が、商品相場の投機に魅力を持たず、
不信の念が払拭されていない事。
(6)売買仕法等の改善に対して産業界が
流通業界、生産者団体、消費者側等、
取引所の姑、小姑の発言力が強く、
取引所側の政治性が低下している事。
◇…このように、ピックアップしていけば、
業界不振の原因は、まだまだ数えられるが、
要するに〔上場商品の問題〕と〔売買仕方の問題〕と
〔業界に対する社会的信頼度〕だと思う。
◇…ある取引所の理事長は、
『新規上場商品の実現は、まさに絶望的である。
であるならば現在の上場商品を、
いかに、みずみずしいものにして取引きしていくかが
取引所に残された道である』と語った。
◇…取引員会社側は、新卒者の募集。
能力の低下している管理者の資質の改善。
経営者の気力と信念の確立。そしてビジョンの創設。
新規顧客の地道な開拓。
受託収支率の向上等、きわめて多次元多角的に
それらの問題と取り組まなければならない時である。
◇…業界は、今日(こんにち)的状態に
陥るべくして陥っている。
従って、
この窮地からの脱出方法も十分わきまえているはずだ。
あとは各人総力を結集して
業界再建を実行するだけである。
◇…さて小豆相場だが、
痩せた投機家群を支援するものがないから、
この相場の下値は深い。
いずれ先限で二万二千円あたりを付けると思う。
すくなくとも今月一杯、
悪くすると来月中旬まで、買いの目はない。
◇…非常に悲しい事だが、
この期に及んでというあたりからの大暴落、
即ちS安さえも考えておかなければなるまい。
●編集部註
三国志好きに五丈原は馴染ある地名。
〝死せる孔明、生ける仲達を走らす〟でお馴染、
蜀の軍師諸葛良孔明が最期に戦った地である。
この時、彼は兵站に悩まされた。
それを踏まえて、この記事を読むと実に味わい深い。
昭和の風林史(昭和五四年九月十九日掲載分)
痩せた投機家 資力、気力ともない
◇…穀取市場を一言で表現すれば
「天高けれども投機家痩せた秋」である。
ゆくゆくは大安小豆だ。
「はたはたも短かくとびて野路親し 風生」
◇…小豆相場に対して、商社筋は上げ賛成である。
この場合の上げ賛成とは
定期を買っているから相場が上がって欲しい、
というわけではない。
相場が上がったら売りヘッジをかけたい
という上げ賛成である。
◇…従って、売られるために買う馬鹿はいない。
狙撃兵が狙いを定めているのに
塹壕から顔を出すようなものだ。
◇…それでも相場が高かったら。
この場合、蜂の巣みたいに穴だらけだと思う。
◇…需要最盛期で輸入小豆が売れているあいだは、
目立ったヘッジもなかろうというものだが、
先行きの見通しによっては、
高いところはヘッジしておいて、
品物が売れた分からはずしていくのがビジネスだ。
◇…上海における小豆の商談にしても、
国内相場がいまひとつの値段だから
商社筋も成約に積極性がなかった。
◇…国内定期相場を、
買い好きな投機家が気張って買い上げたとすれば、
成約量は増大し、すかさずヘッジされるだろう。
◇…投機家は、ヘッジャーのために好んで犠牲になる必要はない。
◇…これからの小豆市場は、
ガリバーのような巨大な売り仕手ホクレンと、
中国の供給。それに台湾の小豆生産者。
このような少しでも高いところを
売ろうとする供給者側に対して、
微力な投機家が穀取という土俵で相撲を取る格好だ。
しかも取引員の自社玉も企業自衛のため、たえず売り姿勢である。
◇…蟷螂(とうろう・かまきり)の斧という言葉がある。
弱いものが強いものに対抗していくさまである。
◇…筆者は、この小豆相場下値に深いものありと思っている。
戻れば売られるのである。
戻らなくても売られる時がくるだろう。
大底が入っていない事。
上値には因果玉がいっぱい残っている事。
中国も日本も収穫の秋である。
供給力は充分。そのうえ台湾小豆が作付けを控えている。
外貨ワクが削減されるだろうという望みはあるが、
需給構造面からくる相場の基調を、
変えるだけの力はないし、
市場構造面(投機家の零細化)からくる市況低迷沈滞化は
恐らく避けるわけにいかないと思う。
要するに、穀取市場は天高けれども投機家痩せた秋なのだ。
●編集部註
相場と関係ないが、この日の甲子園球場、阪神広島戦で、
当時広島にいた江夏豊がリリーフ登板し、
プロ通算600試合登板記録を作る。
この年のペナントレースは広島が優勝し、
日本シリーズでは近鉄と対戦する。
日本一をかけた最後の死闘は、
後に山際淳司が書いた「江夏の21球」で後世に残される。
「塗下駄の湿りや萩の露曇り」 紅葉 (2017.09.22)
昭和の風林史(昭和五四年九月十八日掲載分)
下値深そうだ 投げが投げ呼ばん
◇…この小豆相場は下値が深いと思う。
下げのキッカケがつくと投げが投げを呼ぶだろう。
「塗下駄の湿りや萩の露曇り 紅葉」
◇…毎日の事であるが、原稿を書く時に、
なんの抵抗もなくすらすらと書ける時と、
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「だらだらとだらだら祭り秋淋し」 万太郎 (2017.09.21)
昭和の風林史(昭和五四年九月十三日掲載分)
市場下げ賛成
〝機〟到来を待つ!
◇…市場は北京商談を警戒、産地からの売り声に怯えている。
素直に下げればまた妙味が…。
「だらだらとだらだらまつり秋淋し 万太郎」
◇…東京港区の芝大神宮の例祭は九月11日から21日まで行なわれ、
境内に生姜を売る市が立つので〝生姜市〟ともいう。
また、お祭りが十日間も続くので、だらだら祭と言う。
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