昭和の風林史(昭和五四年十月十六日掲載分)
売って忘れる クリスマス頃には
お天気だけは申し分ない。
各種相場のほうも、結構動いている。
愚痴を言ってもはじまらん。
「紫の淡しと言はず蘭の花 夜半」
>>続きを読む
「悔ゆる言ばかりぞ石榴熟れ初むる」 野雨 (2017.10.18)
昭和の風林史(昭和五四年十月十二日掲載分)
仕掛け場待ち 投機家目下冬眠中
投機資金は動きの激しそうな市場に移動する。
値段は別として、商いのほうは陰の極を思わせる。
「悔ゆることばかりぞ石榴熟れそむる 野雨」
>>続きを読む
昭和の風林史(昭和五四年十月十一日掲載分)
無気力無感動 市場構造に問題が
投機家は阿呆でないから
ヘッジャーの餌食にならないよう用心する。
所詮は安い小豆でしかない。
「実をもちて鉢の万年青の威勢よく 久女」
>>続きを読む
昭和の風林史(昭和五四年十月九日掲載分)
みな売場待ち 人気がありません
どうせ上にはいけない小豆。
なにかの拍子で買われれば売る。
まるで社会党みたいに人気がない。
「木犀の香にあけたての障子かな 虚子」
選挙は水もの、
フタをあけてみなければ判らない。
自民党有利と前評判上々だったのに、
開票結果は、なんとも苦しい。
新聞が作意的に自民党安定多数―と、
囃したてたのではないかと思うのだ。
カラ出張問題にしても
朝日新聞あたりのあつかいは、
大蔵省まで槍玉にあげて、
これは、選挙を多分に意識した感じである。
国民は、そんなに自民党が安定多数なら
―というバランス感覚で、共産党に票を投ずる。
共産党は嫌いだという人は
民社、公明あたりに投票する。
社会党は、
昔はもっと背骨がシャンと伸びていたのに、
誰でも思う事は同じで頼りにならない。
掴みどころがない。
一体お前は、
どっちを向いて御座るのか。
自民党候補者は、
今度の選挙で随分お金をばらまいたようだが、
ばらまいた割りに効果が薄いことは、
これはうれしい傾向である。
いくらばらまいても
票にならないことが判ってくれば、
政治が少しは綺麗になろう。
さて、相場のほうは安いようで安くないが安い。
まるで社会党みたいな相場である。
オモロウないのである。
相場に個性がないから人気につながらない。
その点、あんな精糖みたいな―
という精糖相場が徐徐に人気を集めだした。
円安、海外市況高という時の運が、
この砂糖相場にほほえみかけて、
持ちも下げも
ならなかった砂糖取引所の職員さんも
愁眉を開かんとしている。
先に、
閑で閑で閑古鳥の巣みたいなゴム取引所が、
やはり愚鈍にして仁者は待つのみ―
と達観していたところ、
海外市況高や大口投機筋の売買よろしきを得て、
出来高増大。
ゴム取に非ずして取引所に非ず
とまではまだいかないが、
ともあれゴム取引所も愁眉を開いた。
まあ、このように、栄枯盛衰は世のならい。
天井したものは底を打ちに行き、
大底打ったものは天井を取りにいく。
小豆相場も、いまのところは、
売られるための段階。
高ければヘッジ売りである。
安ければ、値頃の抵抗。
ドカドカ安の暴落は、
今の水準では、あり得ないが、
買って手数料抜けが、これまたしんどい。
結局、なにかの拍子で
高いところを売るしかない。
どうせ上にはいけない相場である。
●編集部註
この記事を担当していて
四十余年前の出来事と現在の事象が
リンクしていると感じる場面にあう。
平成の御代では、
国難に立ち向かうために選挙を行うのだとか、
では、その国難は
何故生まれたのかを考える必要がある。
四十余年前の如きサプライズにならぬ事を祈る。
昭和の風林史(昭和五四年十月八日掲載分)
虚無なる市場 安いような安さ
それ以上のものでない。芯がない。
垂れると、軟弱地合になり商いも細い。
虚無なる小豆相場。
「暗がりをともなひ上る居待月 夜半」
総選挙の開票速報に釘付けされる。
自民党圧倒的有利という、
新聞の世論調査が、そんなに自民党有利なら
野党に入れてみようかと
票が流れたのではないかと思わせた。
政権の安定は国民の望むところであるが、
安定政権に自信を得て、
選挙公約を反故(ほご)にされては困る。
しかし日本人は
案外怒りを知らない国民であるから、
落ち着くところに落ち着くのであろう。
証券界も商品界も自民党大勝利は好材料である。
80年代が
不安のつのる不快な10年になるとしても、
せめて政権が安定してくれなければ
経済の成長に影響する。
きょうは坪野さんの神戸穀取が
開所記念日の祝賀会を行なう。
よその取引所は
五年五年の区切りのよいところで
パーティーを開くが、
坪野さんのところは毎年ささやかな小宴を催し、
会員各位に感謝の意を表し、
ついでに新聞記者一人一人に声をかける。
時節柄、たべるものも飲むものも、
たいしたものではないと思うが、
やはり坪野理事長の御人徳で、
じいさまの顔を見に皆集まる。
さて世界の金相場が仲秋の名月を待たず、
満ちたものが欠けだした。
奇貨居(お)く可し(史記)で
高値に飛びついた人は亢竜(こうりゅう)の悔。
満つれば久しからず(易経)。
投機の世界、相場の世界だ。
小豆相場のほうも、定石通り、
売られるために戻した相場が、
先限五千円。指呼のところで息が切れた。
賽の河原で小児の亡者が
一ツ積んでは父のため、二ツ積んでは母のため、
両親供養の塔を造ろうと
石を拾って積むわけだが、
鬼が出てきてすぐこわす。
三途の河原の石積みは
地蔵菩薩が出て来て救ってくれるが、
小豆相場の賽の河原に菩薩はいない。
だから、売られるために高い―。
こんな味気ないことはない。
安ければ安いで、
下げらしい安さなら張りあいもあろう。
下げらしい安さも期待出来ない。
風むきによって
小学校の運動会の行進曲や歓声が
、聞こえてきたり途切れたり。
子供のいない親は、ああきょうは運動会か―と。
玉を持っていない人は、
小豆が高いか安いか、どうでもよい。
あいまいモコとして、
すすきの穂が十月の風にゆれている。
相場は、下げらしい安さではないが安いだろう。
●編集部註
この時の衆院選。
自民党は248議席しか獲得出来ず
過半数を割り込む。
これに対して、党内で内部抗争が勃発。
後に「四十日抗争」と呼ばれる。
結局、第二次大平内閣が発足するが、
政局の不安定さは拭えず、
衆参同日選挙で勝負に出るが、
途中で首相急死というハプニングに見舞われる。