昭和の風林史(昭和五四年十月三十日掲載分)
戻るのを待つ 買う事を考えない
小豆相場は、戻るのを待っていて、
また売るというパターンである。
買う事は考えないほうがよい。
「草もやす白き匂ひや野路の秋 治郎」
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「何の木のもとともあらず栗拾ふ」 虚子 (2017.11.02)
昭和の風林史(昭和五四年十月二九日掲載分)
再び戻り売り 輸大も売りっぱなし
われわれは事件の発生を常に心待ちしている。
そして事件と相場の関連を考える。
それが投機家だ。
「何の木のもとともあらず栗拾ふ 虚子」
現代は、あす、なにがおこるか判らない時代で、
朝、起きてみたら韓国の大統領が殺されていた。
韓国という国は、
われわれにとっては近くて遠い国である。
年配の人には、かつての朝鮮動乱が、
瞬間脳裏を走った事であろう。
カンボジアとタイの国境の
難民問題に関する新聞のべタ記事を
注意深く集めて分析している人も多い。
世界のどこかで、なにかが発生すれば、
国際商品の相場に連動する。
韓国の大統領殺害事件が今後、
日本にどのような影響をもたらすか、
関心が集まる。
さて、ストップ高した輸入大豆相場が、
週末は安かった。
S高で相場が変わったと思い
飛びついた人にとっては、なんだ―
という印象を強めただろう。
輸大の高いところは売るしかない―と、
どれほど強調しても、
大衆は(セールスも)高いと買いたい。
高い場面は売って、
あと売り玉を忘れておけば
サヤすべりで金利以上の利回りになる。
一年12カ月のうち
10カ月は売っておけばよい商品である。
この輸大が、来月新ポ、香港商品取引所で、
(東京穀取方式)市場が立つ。
香港独自の動きではなく、
あくまで東穀の相場次第という動きになろう。
精糖相場はNY安を映した。
また当限が暴落納会。
長期的相場の見通しは商社筋も、
おしなべて強気だ。
ただ目先的には出来高も、
値上り幅も異常だっただけに、
押し目が入ってもよい。
週末の時点で、相場基調も線型も、
なんら変化なしだった。
小豆相場はS安二発の反動戻し。
二万五千円台は売りという相場から、
二万四千円台は売りという、
そのような山の低い相場である。
いろいろと電話がかかってくる。
相場の話ではない。業界昨今事情だ。
許可更新役所の事。香港大豆市場関連。
新卒者採用など。そしてあの店、この店。
あげくに、なにか面白い話はないか?と。
いつもこう答える。
『天気がよいのが疵(きず)に玉』。
お天気がよい事に感謝するのみ。
今すぐ業界に光明は見出されない。
また期待すべくもない。
精糖、粗糖が動いている。
小豆、輸大も動けば出来る。
生糸、乾繭、ゴム、毛糸。
細細ながらも綿糸も出来る。
贅沢言える時じゃない。
●編集部註
1984年に
『キリング・フィールド』
という映画が公開される。
クメールルージュの行動を
劇映画化した英国映画である。
歴史の裏側は、時間の経過と共に、
芸術作品に昇華されて表出する。
昭和の風林史(昭和五四年十月二七日掲載分)
ライフル連隊 小豆はホクレン讃歌
輸大市場は秋陣営の霜の色。
荒城の月だ。小豆ホクレン讃歌。
砂糖はマーチ・ライフル連隊。
「女湯もひとりの音の山の秋 爽雨」
『新説邪馬台国』の本を出されてからの
清水正紀氏の業界における行動言語が、
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昭和の風林史(昭和五四年十月二六日掲載分)
声もなく無残 胴から下斬って捨つ
小豆市場もおますのやで―
とばかり動いたと思うや胴
から下が斬って捨てられていた。声もなし。
「此里は染めて一面茅の葉かな 青々」
穀取さんを、お忘れか―とばかり、
小豆相場が、なだれを打って安かった。
某穀取の某部長が、
年末のボーナスの事を心配していた。
あんさんは、結構な御身分よ―と言いたい。
なが生きする顔である。
業者は、この夏も苦しかったのに、
穀取さんは、結構出たのじゃないの。
商い閑なら閑で、
すくなくとも部課長あたりは、
芯締りになって、勉強せんかい。
自分のもらうボーナスの事
ばかり考えているから、呆けーっと、
麻雀、ゴルフにうつつを抜かし、
負けてばかりいる。
小豆相場は売り仕手ホクレンが、
ちょっと動いて、
鎧袖一触(がいしゅういっしょく)の棒下げ。
(1)下期ヒヤリングに当っての
政治的配慮(ワクを抑える)。
(2)農家から安く集荷する。
(3)実需不振だから一応
定期にヘッジしておく―等の
目的を持った売りとされている。
ともあれ、いつもいうように、
自社玉比率が、
東京六千九百枚売りの三千九百枚買い。
大阪六千七百枚売りの二千六百枚買い
という圧倒的な売り姿勢の時に、
そのような相場を買ってもアカン事は
市場の常識である。
当欄月曜付けに「売らせず安い」と書いた。
売らん間に値崩れするという意味。
その前には、売っておけば、
クリスマスプレゼント―とも書いといた。
クリスマスのプレゼントが、
早手まわしに、とどいたようなものである。
このあとどうする。
三千円を割って二千円近辺ということも、
相場だから、ないとも言えぬが、
安値は売らずだ。
商い閑になれば、安い値段にいくほど、
手仕舞いが難かしくなる。
(買い戻しで値がはねる)。
人々は、ここで下げておけば、
年末相場が期待出来る―と
希望の燈(ともしび)に
火をつけようとするけれど、
ガリバー的売り仕手ホクレンが
存在することを忘れてはいけない。
小豆が安けりゃ、のおえ―
という歌の文句じゃないけれど、
売りは自殺行為と書いておいた砂糖が、
S安一発後、反騰。
NY砂糖の週間棒や月間棒、
それにロンドンのケイ線を見れば判るように、
この相場は助走の段階を終ったばかりだ。
大阪精糖先限二百四十円目標と言えば、
そんな馬鹿な―となろうが、
相場は相場に聞くしかない。
値頃観御無用なり、
小豆は自律反騰あるも買えず。
●編集部註
相場と全く関係ない話だが、
この年の10月26日は金曜日だった。
この日の夜8時に放送されたのが
3年B組金八先生である。
この時主役を務めた長髪のフォーク歌手が、
38年後に水戸黄門をやるとは
誰が想像しただろう。
「山暮れて紅葉の紅を奪ひけり」 蕪村 (2017.10.30)
昭和の風林史(昭和五四年十月二五日掲載分)
国際投機時代へ 知識と理解度必要
国際投機筋の動きを理解せずに商品相場を
考える事が出来ない時代になった。
「山暮れて紅葉の紅を奪ひけり 蕪村」
精糖市場が人気化しているから、
砂糖の問い合せが編集局に殺到している。
当社には松尾豊さんという、
もと大阪砂糖卸協同組合の
書記長をしていた砂糟の専門家がいる。
小生も砂糖のメカニズムについて教えを受ける。
砂糖相場については、
当社で発行している『商品先物市場』九月号の
〝国際砂糖相場回復の条件〟が参考になろう。
三井物産の砂糖部部長代理の
池田昌之氏が書かれたものだ。
また六月号の〝砂糖買い付けから決済まで〟
も参考資料になるし、毎号、
最低限必要の砂糖に関する基礎データや知識は
固定頁に満載してある。
今回の砂糖相場の狂騰は、
世界の砂糖需給の改善もさる事ながら、
やはり国際投機資金の流れが見逃せない。
手前味噌になるが『商品先物市場』に連載の
〝世界の投機家〟は、国際投機資金が、
どのように動いているかを詳しく書いてある。
七月号の〝円投機の実際と理論〟などは、
為替投機がどんなふうに仕組まれているかが、
きわめて具体的に書かれていた。
また、ニューヨークやシカゴの投機筋の
活動パターンについては七月号の
〝NY綿花市場における投機筋の行動に対する考察〟が、
綿花に限らず、
投機筋の動きを知るうえにおいて参考になった。
九月号の〝銀・需給と価格動向〟。
十一月号の〝金価格暴騰の背景〟は、
三井物産の
非鉄金属第三部・野間和彦部長代理が
執筆されたものだが、香港でも、台北でも
この記事は高い評価を受けた。
国際投機家の活動ぶりと、
金、銀の世界の需給観、
そして相場の動きが専門家の目で、
とらえられている。
このように、
砂糖相場が激動しているからといって
砂糖だけを見るのではなく、
そのバックの投機筋の動きを掴まなければ、
ゴムの相場でも大豆でも、
大きな流れが判らない。
はからずも当社で
発行している『商品先物市場』の
利用の仕方、読み方についての解説になったが、
この雑誌の編集は、
そういう海外市場における投機というものを
タテ軸に、
個々の商品の需給、基礎データを横軸にして、
思考水準の程度の高いビジネスマン、投
機筋、当業関係者向けに発行し、
昨今きわめて高い評価を受けるようになった。
●編集部註
平成の御代に、
あえてこの時代の文章を掲載しているのは、
時代の節目で相場はどう動いたか、
リアルタイムで、
人々はどういう考えを持って動いていたかを
改めて知ってほしい、
という思いから来ている。
ボルカーショックや
ハント兄弟の買い占め等、
この時代の金融市場は大きく揺れ動いていた。