昭和の風林史 (昭和四七年二月十二日掲載分) (2014.03.05)
他商品に移る 八百長に失望し
だんだん小豆相場のカラクリが知れわたって、
馬鹿馬鹿しいから近寄らなくなる人が多い。
「水田一枚天地返へしの春寒し 八重桜」
ひと握りの仕事師が小豆市場をわがもの顔に牛耳っている。
心ある人々は、苦々(にがにが)しく思っている。
手口は、見えすいている。
これを価格操作といわなければ、
他に価格操作とは、どういうものを指して言うのだろうか。
大衆は、本能的に小豆相場に近寄らない。
そして毛糸相場に熱中する。
当分は綿糸と毛糸が人気の中心になるだろう。
そして仕手介入の人絹糸の動向からも目が離せない。
毛糸は、これだけ大衆人気が集中し、
しかもこれに向かって天下の林紡が売るという大取り組み。
大相場の様相は、充分うかがえよう。
陰湿で、どす黒い遺恨が、からみついた小豆など、
さっぱり見限って、大手専業取引員は、
毛糸相場に投機の場を求めるのである。
見てみよ、小豆の手口を。
脇田→乙部→山三→広田→松亀→和歌山→マルモト。
すべて一本の線である。
東京市場で誰も相手にしなくなりつつあることから
陰湿で、どす黒い遺恨相場の主(ぬし)は、
大阪市場に仕事の場を求め、
これが売ったり買ったり、回したりで、
手数料奉公と、コスト高の出血売買に血迷っている。
ひと握りの小豆の策動グループは、
穀物相場を
〝カラクリさいころ〟の賭博場にしてしまい、
仲間内によるガン付け札の八百長コイコイで
日がな一日を過ごしている。
今の小豆相場は、はっきり申してインチキである。
価格操作防止委員会は
こういう時にこそカラクリを調査すべきだ。
すでに小豆は天井している。
しかし、だからとこれを売ると、
八百長グループが強引に煽りに出る。
彼らは組織的であるから、
これに立ち向かうには、唯一の方法として
相手にしないことである。
策動筋を孤立させてしまうしかない。
いかに巧妙な作戦をもってしても
誰も相手にしなければ立ち枯れである。
真に穀物市場を考える良識派が、
すべて傍観者の権利を行使すれば、
策動筋は根なし草になるだろう。
すでに、ひと握りのこれらグループは
立ち枯れの気配を濃くしている。
相場は明らかに末期段階であるが
あえて逆らうことはない。
天、定まって天は人に勝つのが理である。
●編集部註
今回、風林火山の〝火〟の面が前面に出た。
怒りの熱が、行間から伝わる。
ただしこの文章、ブラックジャーナリズムでなく、
義憤から来ている。
ゆすりたかり目当ての難癖であれば、
もっと早くに連載どころか、
新聞自体がなくなっていただろう。
これからしばらく、熱い文章が続く事になる。
【昭和四七年二月十日小豆七月限大阪四八〇円高/東京四三〇円高】
昭和の風林史 (昭和四七年二月十日掲載分) (2014.03.04)
ああ天井せり 相場奈落の底へ
相場は天井した。
明らかに戻り売りの時代に入った。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。決然売りだ。
「暮れなづみ花のみそれと猫柳 虚子」
九日の朝日新聞朝刊に日綿実業は
米国アイダ州ナンパ地方での小豆の委託栽培が成功して、
百㌧ほど輸入が実現する―
という32行・二段見出しの記事が注目された。
相場は、おりから微妙な段階にあって、
この記事が響いたように安寄りした。
百㌧の輸入という、それ自体は、
佐藤総理の四次防予算ではないが、
「たいしたものでない」けれど、
日綿が四年ほど前から小豆の委託栽培を行なっていたこと、
それが成功したこと―などが、
人気で左右される相場に影響をあたえたようで、
ほかに三井物産のコロンビアにおける小豆の委託栽培は
とりあえず千㌧入れる話もあり、
業界で噂されていた商社の小豆栽培が
ようやく世人の注目を浴びる段階にきたことは、
今後の小豆相場を考えるうえにおいて
無視出来ない現象だ。
相場というものは、行き着くところまで行くと
小指で衝くほどの些細なことで転換してしまうものである。
また満つれば欠くるは世のならい。
亢竜の悔(天に昇りつめた竜は、
もう上にも昇れないから降りることを心配しなければならない)
ということもある。
すでに小豆相場は
行き過ぎと見られるぐらい反騰して、
売り方は踏み急ぎ、
買い方は鳥なき里の蝙蝠の感を強うした。
小豆相場は、線型で見る限り天井である。
ただ買い方が、その団結力と資力によって
下げるべき相場を強引に吊り上げたり
煽りたてたりする可能性は充分に残すけれど、
相場そのものは、明らかに戻り天井を打ったと見る。
後光のさすほど輝かしき存在の当たり屋筋・大阪阿波座は
数日来、買い戦線より急速な後退を見せている。
一気に四千円弱を棒立ちした(させた)相場だけに、
ここで半値押しという場面に向かっても、
変なことはないだろう。
ぼつぼつ輸入の材料も出てくる時期だ。
一万八千円あるいは二万円などという上値目標値の
聞かれる昨今だけに、
この相場はくるべきところまで来ている。
そして崩れだせば、棒で上げてきただけに早い。
人、天に勝ち、天、定まりて人に勝つ―。こ
の言葉を忘れてはなるまい。
勝負する人は、好機逸すべからず。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
もとより相場投機。
買い方の逆襲を恐れることなく
決然売りに出るところだ。
●編集部注
風林火山が天井と言ってるから騰がるだろう―。
当時この文章を読んで、
そう思った外務員は結構いたのではなかろうか。
相場は意地悪だ。
この手の御仁が多ければ多い程、文章の通りになる。
【昭和四七年二月九日小豆七月限大阪五五〇円安/東京四九〇円安】
昭和の風林史 (昭和四七年二月八日掲載分) (2014.02.28)
毎日毎節呻吟 天を仰ぎ長嘆息
売っている人は毎日毎節が暗い。
天をあおいで長嘆息。
「味噌を搗き居て早春の詩仙堂 雨城」
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