昭和の風林史(昭和四八年十月二七日掲載分)
いまこそ小豆の生産者は売りヘッジの時である。
欲を出していると安い値段で売らねばならない。
「牛曳いて四山の秋や古酒の酔 蛇笏」
北海道の小豆の生産者は定期相場が高いと、
もっとも高くなるかもしれないと思い、
欲を出すわけではないが、
売り控えるのだろう。
この値段なら充分満足出来る相場であろうから、
先物市場にヘッジしておけばよいと思う。
ただ、ヘッジ玉を場勘で攻められる
という問題は残るが、
ホクレンあたりが定期市場を利用しての
長期販売計画をたてればよいのではないか。
考えてみれば生産者も需要家も
先物市場の利用の仕方を知らな過ぎる。
相場の安い時は、小豆の需要家は
年鑑使用数量が判っているのだから
その半分でも定期市場の先物を
買いヘッジしておけばよいと思うのである。
また生産者は、手取り収入などの
コスト計算が出来ているのだから、
先物市場が高いところで収穫量の半分でも
売りヘッジしておけば、
相場が安くなった時に騒ぎ立てる必要はない。
日本人は、どうも情緒的過ぎて、
安い相場を見れば、需要家は、
もっと安くなるだろうと買い手控え、
相場が高くなると、あわてて買い急ぐし、
生産者は欲が出て、
もっと高くなるだろうと売り渋る。
ある時、豊商事の多々良義成社長が
社会党の代議士先生に、先物市場の利用法の本筋、
即ち商品取引所の機能を説明した時、
つくづくと諸先生方が、
そんなに便利なものだとは思わなかった―と、
自分たちの不勉強さを恥じていたそうだが、
この事は商品業界も反省してみる必要があるように思う。
商品取引所本来の機能についてPRが足りない。
生産者に対しても、需要家に対しても、
実際のヘッジのやり方を知ってもらい、
取引所を利用してもらうよう、
はたらきかけなければならない。
取引所は単に投機の場でギャンブルだ
という印象を社会はもとより
生産者にも需要家にも印象づけているように思える。
倉庫事情、輸送事情などにより現物の流通面で
あい路が目立ち、強力な投機集団の活躍の場
となっている小豆先物市場であるが、
いまこそ生産者はヘッジの時でなかろうか。
●編集部注
以前、TOCOMの地下のホームで
やっていた某社主催の商品セミナーで、
本紙でもしばしば寄稿戴く事のある先生の講演に
参加した事がある。
曰く、米国の穀物生産者は
相場をちゃんとチェ ックし、参加するとの事。
日本もこの時業界が種を蒔いていれば、
TPPで慌てなかったかも…。
【昭和四八年十月二六日小豆三月限大阪一万四三三〇円・五〇円高/東京一万四二九〇円・八〇円高】
昭和の風林史(昭和四八年十月二五日掲載分)
小豆相場を見ていると
強力な磁気による暗示にも
誰も彼もがかかっているように思うのだ。
「午の雨椿の実などぬれにけり 青々」
司馬遼太郎氏の
〝人間の集団について〟(ベトナムから考える)
を読んでいると、ウズラの魔法というものがある。
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昭和の風林史(昭和四八年十月二四日掲載分)
小豆相場を強気している人の言っている事のすべてが
その通りだが、だからよけいに強気になれん。
「子に渡す双眼鏡や鶴来る 喜代子」
近所の酒屋が麦酒が値上げになるので買っておきませんか
と注文を取りに来た。
キリンは値上げしないから、買い溜めする必要はない
―と言うと小売店の段階で
自主的にキリンも値上げしますと言う。
会社のほうにも出入りの酒屋が来た。
キリンも値上げしますからと言う。
キリン麦酒の佐藤保三郎社長は
手持ちの安い原料で作れる今期(来年一月まで)中は値上げしない
と言明していながらビールは公定価格でも再販価格でもないから
末端の価格については責任がもてない―と言う。
中東戦争が始まった時、
暖房用の灯油のひと冬分使用量を計算して契約させたら、
まずドラム缶を一本持ってきた。
二本目は値段がまだ判らないが、
現品を持ってきておこうかという。
計算すると、あまり安い勘定ではない。
問えば、ドラム缶の代金と
トラック運送料金がはいっているのだという。
ドラム缶を二本も三本も
狭い庭に置いてあるのを近所の人々に知られたら、
きっと問題が持ち上がる危険があるのでやめにした。
わが家のトイレのそばに、
ちり紙の梱包が天井までぎっしり積み上げてある。
それなのに、また背丈ほど買い込んで
通路は横向きにならないと通れない。
いい加減にしろと言えば、
年内に、もう二回値上がりするのだと言う。
火がついたらこの家は
さぞかしよく燃えることだろうと思う。
小豆相場が下がらないのも判らぬことではない。
なにかモノにしておおきたい心理が浸透しきっている。
特に戦中、戦後の物資不足時代を経験してきた年代は
生活必需物資をストックすることに異常である。
石ケン、洗剤、食油、味の素など
数年分を溜めているのではないかと思う。
その点、先物市場での買いヘッジは、
場所をとらない。
いつでも手仕舞い出来る。流通性がある。
小豆の在庫が豊富であろうと、豊作であろうと、
価格はすべて高騰する時代に逆らって
相場を弱気するのは
現代の経済を知らなさすぎるのであると言えようが、
筆者はこの小豆相場を強気する気にはとてもなれない。
●編集部註
ようやく、文章内に物価高騰の話が出てきた。
当欄を担当するにあたり、
もはや必携となった朝日文庫の「戦後値段史年表」を
ここでひらく。
昭和四五年十月の麦酒大瓶一本の小売価格は一四〇円。
それがこの年の十月に一六〇円になった。
現在はその倍くらいか。
【昭和四八年十月二三日小豆三月限大阪一万四一一〇円・二六〇円高/東京一万四〇〇〇円・一三〇円高】
昭和の風林史(昭和四八年十月二三日掲載分)
商品全般から見ると小豆相場に、
もうひとつ人気がない。
釈然としないものがいつもあるからだ。
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昭和の風林史(昭和四八年十月二二日掲載分)
サイケ調のマリファナの幻覚相場である。
筆者は好みに合わないから強気などしない。
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