証券ビュー

森羅万象

異色の教皇  着実な改革手腕 (2020.03.26)

 フランシスコ教皇は、バチカンの歴史に照らせば極めて「異例」な人物。
第一に、歴代教皇がほぼ全員欧州人だったのに対し、フランシスコ教皇は初の南米出身者。
第二に、イエズス会特有の「フロンティア精神」を体現する人物とされ初の同会派出身者。
第三に、「キリストの再来」と言われたアッシジの聖フランチェスコに由来する初名乗り。
    
四つの指針もまた異色な改革者で今世紀のルネッサンスに期待。
第一に、「貧しい人たちのための教会」を掲げて言動が一貫している。
教会は信徒とりわけ弱者のためにあるとして、聖職者は教会の外に出て
弱者や貧者、難民、差別された人々に寄り添うように説く。
教会がこれまでタブー視してきた家族倫理面では、離婚者や同性愛者に至るまで
暖かく包み込むよう訴え、家族問題に関する指針を発表。
難民問題では、受け入れを拒む世界の指導者をたびたび批判し、メキシコとの国境に
「壁」建設を主張するトランプ氏を「キリスト教徒ではない」と米大統領選の際に痛烈批判。
訪問先のギリシャからイスラム教徒のシリア人難民3家族12人を連れ戻ったこともある。
    
 第二は、いわゆる「南の教会」と呼ばれる考え方へのシフトは外交面で顕著。
世俗的問題としての南北問題について、格差拡大の責任や環境劣化の元凶は
先進国たる「北」にあると強調し、質素な生活に戻るよう迫る。
フランシスコ教皇は既に日本を含むアジア7カ国を訪れ、中東・アフリカにも足を延ばしている。
欧州や北米など西欧中心主義が強い超保守派のベネディクト前教皇が在位8年間でアジアに
足を踏み入れたことはなかったのと対照的。
2015年6月には、環境問題に関する見解を集大成した回勅「神の賛歌」を発表。
    
第三に、「集権から分権」「中央から周辺」へのシフトに伴う現実志向。
枢機卿に占める欧州出身者5割強と「南」出身者4割の比率から4割と5割に逆転させて
バチカンのエリートが統治してきたカトリック教会から現地の実情に即した教会育成を後押し。
アマゾン地域に関わる環境問題などフォーカスした司教会議は、昨年10月に提出した最終
文書で、聖職者は男性に限るというカトリック教会の原則である神父独身制を大きく修正。
神父不足を改善するため、既婚の助祭の神父昇格と女性の助祭任用をアマゾン地域限定で
可能にしてほしいと司教たちが要望した内容が出されている。
    
第四に、教皇に次ぐ実力者である枢機卿や側近をはじめエリート脱却の人事。
就任ほどなく、リベラル派でバチカンとのしがらみが薄い枢機卿による助言グループを設置。
バチカン官僚よりも世界各地のたたき上げ組が優先されることも少なくない。
この数年教皇批判を繰り返す枢機卿の多くは引退組だが、割を食った「北」出身者や
バ「疎んじられた」と受け止めチカン官僚の不満をためている層に支えられているらしい。
    
「バチカンは強すぎる」と常々語るフランシスコ教皇は保守派の頑強な抵抗に辟易としている
らしいが「自分は軋轢を恐れない」「反対派は主張を続ける権利がある」とも語っている。
ただ教皇の姿勢は慎重すぎて中途半端と急進派は落胆しているそうだが、既存の大枠の中で
運用を変える微調整から着手することこそ超保守派との摩擦回避しながら実績を出したコツ。
フランシスコ教皇が就任後に昇格させた枢機卿が過半になった現況で反教皇的な動きを
煽ることは考えがたくバチカン解体に繋がるような分裂騒動はブラフとして収束すると思われる。
    
生え抜きの人物にはない新しい発想で、異色の背景を持つからなし得たといえる例は多いが、
弱者に寄り添った聖フランチェスコに傾倒していたことからフランシスコを名乗ることにした
ホルヘ・ベルゴリオ枢機卿は清貧、質素、奉仕、自己犠牲を旨とし、バチカンの宮廷文化とは
対極にいる点でカルロス・ゴーンのような醜態を晒すことはないだろう。
但し伝統の裏側には資金力と情報網を蓄えており人脈と間諜が蠢いているのは意識しておくべき。