意外に深い 秋底をつくるための下げ (2018.10.11)
昭和の風林史(昭和五七年九月十四日掲載分)
小豆の下値は意外に深い
小豆は七月19日の下値を
とりに行くだろう。
要するに
秋底をつくるための下げだ。
小豆の高値掴みの人は、
12日の日曜の台風18号進路を
夜遅くまでテレビに張りついて、
よしこれなら産地直撃、
週明けS高かも―と
期待したことであろう。
確かに北海道二番限月は
S高付けたが、
被害もなかったようで
消費地相場は、よく知っている。
高値掴みの玉が逃げられるほど、
相場に戻す力はなかった。
今回の台風18号が日曜でなく、
あれが相場の立っている日だったら、
もう少し買ったかもしれない。
ということは、買い方にツキがない。
相場の世界で
なにが一番悲しいかといって、
このツキが離れるほど
悲惨なものはない。
この七月に
潰れた桑名筋にしても
去年は10年ぶりに戻ってきたツキだった。
これを大切にしなかったがため
今年に入って延々と苦戦して
遂には店二軒を飛ばし
業界に多大な迷惑をかけてしまった。
いま生糸市場で似たようなことを
栗田氏がやっている。
彼からもツキが離れている。
四斗樽一杯の才能よりも盃一杯の幸運が勝るのが人生であり相場である。
ツキが離れた時は無理をせず、
腕をこまねいて放つなかれ。
日暮れて道遠しだが、
忍の一字しかない。
二万九千円は割れない
とみる人の多い小豆だが、
割るときゃ一発雨ん中。
三万円は傘。
二万九千円を割るために
戻したようなものかもしれない。
大幅増反、豊作相場を
出しきっていないこと。
三万円台の因果玉が
整理されていないこと。
景気がよくないこと。
そんなことで、
収穫が進めば、
大根どきの大根相場。
買い玉の大掃除で
二万八千円を割っている
かもしれないと思う。
七月19日の安値は必らずとりに行く。
●編集部註
鍋島高明氏がこれまで
何冊にもわたって
書き綴られておられる歴代の
相場師たちの評伝を見ると、
つくづく引き際の難しさを感じる。
勝ち逃げという表現は
するべきではないかも知れないが、
最後の最後で
一敗地に塗れるケースが少なくない。
勝利者は、
大概相場から離れて
別の分野に移っているケースが多い。
鍋島氏の著作を読むと
「え、この人相場張ってたのか」
という人物が登場する。
繰り返す諸行無常―。
相場とは関係ないが、
この日グレース・ケリーが
自動車事故で死んだ。
ヒッチコック作品の
ヒロインとして頻繁に
出演した彼女は、
1956年に引退。
モナコ公国の公妃になっていた。