「里古りて柿の木持たぬ家もなし」 芭蕉 (2017.10.27)
昭和の風林史(昭和五四年十月二四日掲載分)
売りは自殺だ 狂暴国際投機市場
砂糖を売ってみたいが―
という地方の読者から電話がかかりだした。
売っちゃいけない。自殺行為だ。
「里古りて柿の木持たぬ家もなし 芭蕉」
精糖相場の、にわか勉強が盛んである。
穀物市場のほうは、
砂糖取引所に人気を奪われ無風状態。
商社筋では
ニューヨーク砂糖(現物)21・75㌣(ポンド当り)、
あるいは36㌣、それを抜けば45㌣が、
ないとは言えない―と、
投機の嵐にとまどったふうだ。
一九七四年11月、NY砂糖(現物)相場は
史上最高の65・50㌣を付けた。
いまから思うと、
まるでエッフェル塔のような罫線で、
上昇もきつかったが、反動安も凄かった。
今回も、またあのような狂騰を
演じるのだろうかという不安がある。
あの時は、日本の砂糖取引所が
精糖の売買を停止してしまった。
出来高不振で
坤吟していた砂糖取引所にとっては、
余り急激な上昇だと、
増証や規制をかけなければならない。
出来得れば、穏健な上昇が続き、
商いもにぎわって、
取引所の収入が増大していく事を願う。
要するに息の長い相場を期待するのだが、
これだけは国際相場だけに、
まったく海外次第である。
メーカー筋は出し値を引き上げているが、
現物の売れ行きが、いまひとつである。
完全な海外市場における投機相場だけに、
実勢から遊離する。
さりとて、値頃感などで売れば、
ストップ、ストップで、
どこまで行くかわからない。
われわれは過去に国際投機筋が
介入した相場の怖さを見てきた。
為替相場におけるとどまる所を
知らなかった円高相場。
そしてロンドン自由金相場の
三百五十㌦から四百五十㌦近くまで
一気に熱狂してしまった相場。
これらは、いかなる政府も関与出来ない、
地球上を這いまわる巨大な、
ユーロダラー(無国籍資金)が
獲物を見つけては襲いかかるから、
行くところまでいかなければ、
おさまらないのである。
地方の読者から、砂糖を売ってもよいか
―という問い合せが多くなった。
とんでもない。
売っちゃいけませんよ―と言うのだ。
海外からきている狂乱相場だから、
どこまでいくか判らない。
しかもストップ連続でやられたら、
手仕舞いも出来ない。
売っちゃいけない、売っちゃあぶない。
値頃観などまったく通用しないのが
国際商品の投機市場である。
小豆や輸大は、
あっけにとられて砂糖相場を
眺めている格好だ。
●編集部註
ここでの記述通り、
この時の砂糖は
〝売っちゃいけない、売っちゃあぶない〟
相場であった。
ここで大阪粗糖の月足を見てみよう。
79年2月に5万円付近で推移していた相場は、
10月に吹き上がって倍になり、
7カ月後の80年5月に23万7800円まで上昇。
下げ相場はそこからであった。