証券ビュー

森羅万象

猩々病篤かりき 坪内水哉 (2017.09.27)

昭和の風林史(昭和五四年九月二一日掲載分)
ドカ安もある 買い勢力壊滅状態
◇…絶望的である。
チンタラチンタラやっておいてドカドカと
一本の道に出る秋の下げ相場である。
「南無秋の彼岸の入日赤赤と 寸七翁」
◇…小豆相場は、ますます悪い。
この調子では先限の三千円割れから
二千円そこそこまでの下げは、加速度がつきそうだ。
◇…相場が悪いということは、
相場経験者なら百も承知の地合である。
だが、下降グラフに?まっている人が多い。
◇…基調の崩れた相場は地獄の底を見るまで止らない。
今の小豆がそれである。
◇…下げ相場は、売ってから考えよ―という。
基調崩れの相場を、なにがどうだから、
ああだ、こうだという屁理屈無用。
強弱垂れている間に値は消える。
◇…売り勢力と、買い勢力のバランスが
崩れているのだから、強弱観など、ないはずだ。
◇…それは、値頃感無用という場面である。
下げ日柄でいうと今月一杯は駄目だ。
先限二万二千円を割ったら止まるかというと、
それはどうだか判らん。
◇…古品小豆の圧迫。
そして新穀のヘッジ。輸入小豆のヘッジ。
とにかく、取引所に
ヘッジしておこうという環境である。
反して、買い方投機家は
資力的にも気力的にも消沈してしまった。
◇…ホクレンは、ガリバー的巨大な売り仕手である。
取引員自社玉も、売り仕手的存在である。
中国も売りたい。台湾も古品を売りたい。
◇…一体誰が買うのか。
ほかならぬ、投機家、貴殿である。
さしずめ〝汝らの双肩にあり〟
というところであるが、汝らは痩せてしまった。
松尾芭蕉ではないが
「此道や行人なしに秋の暮」である。
◇…そういう相場だからチンタラ、チンタラ下げているかと思うとドカドカときたりする。
なにを言おうと、底が入るまであかんのだ。
土井晩翠の「星落秋風五丈原」。今の人は知らないだろう。
丞相(しょうじょう)病(やまい)あつかりき―である。
祁山悲秋の風ふけて、陣雲暗し五丈原―と歌ったものだ。
零露の文(あや)は繁くして草枯れ、
馬は肥ゆれども、蜀(しょく)軍の旗光なく、
鼓角の音も今静か、丞相病あつかりき―と。
◇…相場には、投げ当りというのがある
投げたあと相場が更に安い時に言う。
あかんのだから、
投げは早いに越したことはない。
つまらないプライドと強情で辛抱しても
損を大きくするばかりである。
あかん相場は、あかんのである。
●編集部註
 総悲観の時、大概節目をつけるから皮肉である。
 ちなみに今回登場した土井晩翠は
『荒城の月』の作詞者として有名だが、
ホメロスバイロンの訳詩を
日本で初めて行った人物としても有名である。