昭和の風林史(昭和五四年八月二二日掲載分)
天候次第だが 買い屋にかげりが
市場は悲観人気に傾いている。
買い方は支柱がないため、
気迷いを深めかげりが濃い。
「なきそめし今宵の虫は鉦叩 素十」
北海道小豆の作付面積は三万六千㌶と発表された。
前年比千九百㌶の増反である。
一応三万四千㌶という予想だったし、20日の農水省発表は、
三万一千㌶から三万二干㌶の線でなかろうかと臆測などもあり、
三万六千㌶は、心理的にギャップが大きかった。
作況のほうは、八月一日現在、やや不良(95~98%)であるが、
立秋以降の高温続きで、かなり回復しているという見方が
支配しているため、
台風10号の無影響もあって産地筋の売りが急落の引き金を引いた。
さて、この暴落によって、相場は天井した―
という見方が支配している。
相場に亀裂が入ったと判断しても、おかしくないところである。
それというのも買い方に芯がないこと。
最大の買い根拠だった作柄が回復したこと。
高値で取組みがふえたあとの急落で、買い玉が捕まっていること。
ホクレンなどの売りが激しく、
また売り方に玉の回転が利きだしたこと。
以上のような相場環境だけに、
強気する側は、まったく迫力を欠く。
あとは、秋の需要期に向かって、値段が落ち着けば、
現物の売れ行きに期待をかけることと、
まだまだ作柄が決定したわけでなく早冷早霜の不安も残している。
更に台風11号の針路についても
油断は出来ないから望みは断たれていない。
しかし、実戦としては、
(1)見切り千両で、買い玉ぶん投げて、先限を新規売る手。
(2)高値で拡げた買い玉を
三分の一でも半分でも整理して様子を見る(追証に耐える)。
(3)しまったはしまえ。買い玉総投げして相場を休む。
この三ツの方法しかない。
気やすめとしては、
上げ幅の三分の一押しということになるが、
このあと北京商談が控えている。
一昨年は台湾に先を越された中国だが、
昨年は、北京商談で青田小豆を売ってきた実績がある。
中国の小豆作柄も、これからが北海道同様、
山場になるわけだが、
輸入小豆という材料が一枚加わる時期にくるだけに、
上ばかり見ての神だのみの強気も、
いささか現実から離れてくる。
見渡して、聞く声弱気ばかりである。
鳴くは裏山蝉ばかり。
蝉じゃござんせん買い屋でござる。
売り屋も泣いて踏んだ相場だ。
今買い屋が打たれて、これで相撃ちとなった。
●編集部註
これを、芸と言わずして何と言おう。
買い方にも、売り方にも敬意を払っている。
実際に相場で大当たりし、
痛い目にも遭っている人の文章である。