昭和の風林史(昭和四九年三月二五日掲載分)
しばらくは大きな下げもなし、
さりとて急騰もなし。
なんとなく締まらない場面であろう。
「桑ほどく日和のあとの蔵王雪 綾園」
証拠金問題がスッキリしないことから、
相場のほうも今ひとつ釈然としない。
主務省当局は
業界側の証拠金引き上げ反対の圧力に押されて
苦慮しているようだが、そういう時に
相場が投機人気で高騰するようだと
すかさず証拠金引き上げの口実をつくることになる。
現在は、先に砂糖相場に見られた如く、
理由がどうあれ、本筋がどうあれ、
自民党政権としては無茶苦茶を承知で、
黙りおれい、控えおれい―の態度であるから、
泣く子と田中政権には勝てない。
主務省役人は虎の威をかりるわけではないが、
政府がその方針だから
業界の実情は判っているけれど至上命令がある以上、
これまた無茶だと知っていても仕方なく
長いものには巻かれざるを得ない。
予算が通過するまでの辛抱か。
国会が終わるまでの辛抱か。
世の中、なにもかも狂っている。
小豆相場は、小豆を強気している仕手筋が
ゴム相場で悪戦苦闘した事から
戦線縮小が言われ、嫌気された。
昨年、一昨年と常に商品市場の
話題の主であった二ツの巨大な仕手の存在が、
ここにきて影が薄くなった。
二人の戦国武将が
智略と用兵の極致を余すところなく
見せてくれた商品市場であるが、
両将共に雄図空しく相ついで
傷つき…とでも言うべきか。
孫子兵法は
『勝を見る事衆人の知るところに
過ぎざれば善の善になるに非ず』と。
また言う
『いにしえの、いわゆるよく戦う者は
勝ちやすきに勝つ。
故によく戦うものの勝つや智名もなく勇功もなし』―と。
平家物語は
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色。生者必滅の理をあらわす。
奢れる者久しからず、ただ春の夜の如し。
猛き人も遂には亡ぶ、ひとえに風の前の塵の如し―。
世の中は無常。
まして勝負の世界、相場の世界は
奢れるもの久しからず、生者必滅である。
だからと言って
この小豆相場を弱気する必要はなかろう。
舞台は回り持ち、歌の文句にもある。
燃えて散る間に舞台は変る、
まして相場はなをさらに…。
●編集部註
相場は、
波動と日柄と値幅の3つで構成されている
といわれている。
一本調子には進まない。
トレンドは一本調子でも内部に小さな波があり、
転換期にこの小波の振幅幅は大きくなる。
相場に負けるのは大概ここだ。
【昭和四九年三月二三日小豆八月限大阪一万五九九〇円・一〇〇円高/東京一万五九八〇円・二一〇円高】