ジャカルタ11日発ふーりん東南アジアを飛ぶ (2016.03.28)
昭和の風林史(昭和四九年三月二十日掲載分) 鏑木発信
★相模ゴム工業を訪う
マレーシア相模ゴム工業は
イボーの広大な敷地に立つスマートな工場だ。
この地は、もと錫の採取場だったのを
三十キロ四方をマ政府が埋めたてして
軽工場地帯に指定したものだそうで、
その一角を占めている。
折りよく日本から相模ゴムの会長松川サク女史が
マ相模社員の結婚式で当地に来ていた。
明日が日本の吉日であり、また中国の吉日で、
盛大な結婚式を挙行するとの事。
われわれは、
首脳者一同の手厚い歓迎を受けたあと
二班にわかれ
大跡信郎社長その他の方々から説明を受ける。
説明によれば衛生スキンは
国連あるいは人口問題に悩むマ政府等の
大量買い上げがこの秋に予定され、
生産が追いつかない状態。
大跡社長は
工場内部のカメラは遠慮して欲しいという。
もっともだと思った。
★老会長も説明役
婦人経済連盟理事長、東京商工会議所議員
その他六、七ツの肩書を持つ松川サク女史は
八十三才とも見えず、
終始ニコニコして説明を続ける。
大跡信郎社長の奥さんがサク女史の娘さんで
マ相模の営業部長。五十三才と聞いて、
その若さと美貌に驚く。
工場の工程は
ステンレスのピカピカ光った哺乳器型を
大きくした格好のものが
機関砲の弾帯のようにつらなって(下向き)
ゴム液の中を通過する。
そしてそれが槽の中から出てくると
見事に薄いゴムの膜をかぶっている。
そのままそれが水槽の中を通っていく。
ゴム膜にちょっとした穴があいていても
チェックされる仕組みだ。
水槽には電流が通っているから
穴があいていると
ステンレスの哺乳器みたいな金属に電気が通り、
欠陥製品はパチンと音がして摘出される。
次に乾燥機の中を通過する。
クルクルまわる器械で
哺乳器型の鋳型から製品がはずされ、
ダランとした、だらしのない格好の製品が
大きなダンボール箱に山となって積まれる。
★超ミニ美形の従業員
この工程の従業員は女子ばかりで、
いずれも色は褐色や黒いけれど
十六、七才の彫りの深い超ミニスカートの美人系である。
だらしなくのびている製品に
天花粉のようなものがつけられ、
両方から向かい合っている女子従業員のあいだを
今度は上向き型に並んだステンレス製哺乳型が
どんどん通過する。
彼女たちがひとつずつ、つまんでホイ、ホイと
製品をこれにかぶせていく手つきは
つい見とれてしまう。
われとなく見とれていると、さすが乙女だ。
恥じらいの色を示した。
その機械が巻き取り器を通ると、
クルクルと巻かれてポツンと先だけの出た、
使用前の姿になる。
これを包装機に入れてパックしていく。
★入念に製品の検査
最も重要なのは品質の検査だ。
別の場所で一人の女性が
製品に空気を入れてふくらませ、
メーターの針をのぞき込み、両の耳に指を詰める。
大きな風船が割れる時に音がする。
メーターの針がどこまでいったかを記入する。
五百単位か千単位かに一ツ抽出して強度を検査し、
悪かったら工程番号のその全部の製品を
ボツにするそうだ。
少し離れたところで
二人の女性が製品に水を注入して、
子供が遊ぶみたいに両手でこれを抑えたり、
ひねったりして、更に水を注入し、
割れるまで検査している。
★なるほどカメラはダメ
なるほど
カメラの持ち込みが禁じられた理由が
判ったような気がした。
サイズは国際規定十七センチ
日産十万個(と聞いたつもり)。
見学者一同、
まことに熱心であるが神妙な顔つきだ。
なんとなく神聖なものを見た
という複雑な気持ちがあるのではなかろうか。
★貴重な日本酒を戴く
一行はおみやげに
それぞれ製品を一箱ずついただき、
用意された昼食の会場に向かった。
大跡社長は清酒〝冨久娘〟を
二本大事そうにかかえている。
日本のお酒を難儀して入手したのだそうだ。
これを皆で少しずつ飲もうというのだ。
小生は生つばが出た。