昭和の風林史(昭和四九年二月八日掲載分)
どっこい生きていたという事。
人気弱くなったころ、
秘かに忍びの衆は闇を抜け四方に散るのだ。
「手を洗ひをへて思ひぬ春めくと 黄枝」
相場は、あくまでも皮肉に持って回るから、
今年の天候を思惑して、
高値で〝凶作相場〟のバスに飛び乗った人たちが、
つぎつぎ投げ落とされ、
忍の一時もどこかへ消え
逆に下り特急列車の切符を買ったりして、
弱人気が市場を支配したあたりから
本年の相場が始まるのではなかろうか。
昨年は三月の10日一万六千三百円から
四月14日の一万八百円まで
五千五百円幅を逆落としにあった。
天候相場を期待して強気した人々を
絶望の淵に突き落としてしまった。
あの時も、二月に燃えたインフレが
閣議で豆腐問答となり、大豆相場が大暴騰して
毛糸、生糸の商品相場や商社が槍玉にあがり、
その反省と、インフレ中だるみで
昔の陸軍記念日から小豆も急落した。
しかし、そのあと七月に向かって
再び小豆相場の騰勢は盛り返した。
この時は一万九千円を抜いて
二万円指呼の間に買われていた。
そして主務省課長の二万円を付けたら
市場を閉鎖するというおどかしで
九月11日まで再び大暴落した。
この下げは三月10日からの下げとは
少し性格が違っていた。
いわゆる豊作相場と仕手崩れである。
本年大発会、暮れのうちから熱気充満し
弾(たま)もタンクも銃剣も-
と満を持して発会を待ち
一気に買ったところが御祝儀相場の悲しさ。
その反動安である。
この相場で高値の玉整理が進み、
人気が野も山も見渡す限り弱くなりきれば、
存外、どっこい生きていた―
となりかねない。
天候相場こそ万朶の桜か襟の色。
歩兵の本領である。
花は吉野に嵐吹く、
大和おのこと生れなば
散兵戦の花と散れ。
アルプス山を突破せし
歴史は古く雪白し、
奉天戦の活動は日本兵の花と知れ。
前進、前進また前進、
肉弾とどく所まで、
わが一軍の勝敗は
突撃最後の数分時―。
まさに二万円を突破せし歴史は古く
雪白しである。
今年の北海道は大旱ばつ型。冷害型。
市場を弱気が支配したころ、
ひそかに甲賀忍者の矢ははなたれる。
戻り売り、戻り売りが、
結局散兵戦の花である一大メロメロドラマの
踏み上げ場面となるだろう。
●編集部註
自分の読み通り相場が動いている時ほど
気持ちの良いものはない。
総弱気の時は、
たわけになりて買うべしが
相場の作法なれど、
たわけになりきれぬのが凡人の日常。
非情こそが相場忍のおきてなり。
【昭和四九年二月七日小豆七月限大阪一万五〇一〇円・八〇円高/東京一万四六八〇円・一九〇円安】