昭和の風林史(昭和四八年十月二九日掲載分)
赤いペンキを塗りつぶしたように強気一色である。
下げようとする相場を陽動していた。
「渋柿は渋にとられて秋寒し 子規」
群集心理は怖いもんでんな―と言う。
並んでお酒を飲んでいる二、三人は若い大工である。
腹が立って、腹が立って、
手当たり次第、砂でもなんでも投げていたら、
読売テレビの馬鹿共が、
いつまでもやっているのでワーッと押しかけて、
あのテレビカメラのレンズ、ぶっこわしたの、
ワテですがな。
六百万円するちゅうレンズですわ。
(横にいる)こいつは
王選手の横っ腹蹴飛ばしてきよった。
スーッとしましたわ。
警官がワーッと来よりました。
巡査も言うとりますわ、
わしかて阪神ファンや、
お前らみたいにやってみたいが職務上できん。
帰れ帰れ―と。
顔見知りのこの阪神気違いは
よほど楽しかったような言い方である。
筆者は野球に関心がない。
しかし彼らの話を聞いていると、
カラッとしていて楽しい。
わしらデェクは学が無いのでよう判らんが
群集心理ちゅうもんはこわおますな。
なに言ってるんだ、
六百万円もするカメラのレンズをぶっこわしといて、
群集心理もへったくれもあったもんか。
それで、よう逮捕されんかったね。
逃げるの、早よおまっせ。
カメラの機械に指紋残してきただろう、
今ごろ調べとるわ。
あ、判りまっしゃろか。
判るとも。
君たちよく海外旅行するだろう。
キーセンばっかり買いに行きよって、
指紋登録してるやろ、
あとから、たぐってくるんや。
日本の警察ナメとったらあかんで。
彼らは、
いっぺんに酔いがさめた顔になった。
小豆相場も群集心理である。
阿波座はペンキを塗ったように強気一色だ。
二万円まで
一本調子で行くような気分になっている。
そこまで楽観的でなくとも一万七千円。
一万五千五百円説は、
半ば〝常識〟化している。
十一月新ポの四月限登場を
期待しているわけだ。
筆者には、さっぱり判らない。
誰も彼もが強気になっているのを見ていると、
ひょっとすると筆者だけが
とんでもない錯覚をしているのではないか
と思ったりする。
だが、相場は相場である。
買うだけ買ってしまえば
必ず大下げがくるだろう。
長い目で見たい。
●編集部注
阪神が何をしたのか。
リーグ優勝を逃したのだ。
甲子園での巨人対阪神最終戦。
勝者がセリーグ覇者。
その大事な試合で阪神は9対0で大敗する。
この年、巨人は日本シリーズV9を達成した。
【昭和四八年十月二七日小豆三月限大阪一万四四五〇円・一二〇円高/東京一万四二八〇円・一〇円安】