昭和の風林史(昭和四八年十月十一日掲載分)
よく買いついたあとだけに、
下げも案外深いように見える。
ジリ貧か?ドカ貧か?。売り一貫。
「ひとりではなく独りの土瓶蒸し 龍男」
下げるために上げたようなものである。
今は相場に芯が無いから、上げると必ず下げる。
上げるのは人気である。
ワッと買うから、ついつられて買ってしまう人が多い
群集心理である。
だが世の中に群集心理ほどはかないものはない。
去年の今ごろ
日中友好ムードで湧いた田中ブームの
行方をみてもわかる通り。
一晩寝たら覚める場合がはなはだ多い。
消費地在庫が九ヶ月ぶりに減少した、
九月の出荷が十三万俵もあった、
それっと買ってみたものの半日で腰くだけ。
上に持ち上げて、
下げるためのエネルギーを貯えただけである。
それに強気にとって
大きな気分的な支えであった手亡の人気がはげて、
このところ秋の日のつるべ落としのおもむきとなって
下げの一方通行、底なし沼に足を突っ込んだ観がある。
これでは小豆の買い方大手が、いかに健在であっても
何時までも支えきれるものではない。
ピービーンズがトン当たり八百㌦台に狂騰した
というニュースで、
手亡が一万五千円でも安いとはやしたてたが、
これもつかの間のことだった。
そして手亡を買わなかった大衆が、
手亡より安い小豆をワッと買った。
産地筋がこれに売ったかどうかはっきりしないが、
一万三千円は目をつむって売るところだったと思われる。
六十万俵のタナ上げがいずれ実施される
という見通しのもとに買い居すわるのも
一つのあり方かもしれないが、
去年のタナ上げの成功の背景には
十月から十二月にかけて、
安値でずいぶん品物がはけたので、
タナ上げの効果が予想以上にあったのである。
今年はあまりに早くタナ上げ、タナ上げといって
投機家も買っているし、
産地農家も売り渋っている傾向がある。
四十六年の秋は一俵二万円近くもした道産小豆が
四十七年には一俵一万円以下で買えた。
だから一俵買う人は二俵買ったものだ。
今年はどうだろう。今の値段では去年のように売れないだろう。
約三千円上げの半値ぐらいの下げで収まるまい。
●編集部註
この記事の前の週に、
中東側がイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた。
この記事の翌週に、
OPECは石油公示価格を1バレル=3㌦から
5・1㌦に70%引き上げる。
明らかにイスラエル支持を表明した西側諸国に対する
報復措置。
実際、この直後OAPECは
支持国に石油禁輸措置を取る。
「狂乱物価」の始まりだ。
【昭和四八年十月九日小豆三月限大阪一万二九三〇円・一五〇円安/東京一万二八四〇円・二六〇円安】