昭和の風林史 (昭和四七年一月八日掲載分) (2014.01.28)
玉碎寸前なり 三千円も危うし
買い方は玉砕寸前である。
一万三千円割れの場面が、
ここに来て考えられる。
中旬以降大崩落だ。
「冴ゆる夜のこころの底にふるるもの 万太郎」
塩町の高津さん遊びにきて、
ストップ高の精糖相場を売ってみませんか?という。
高津商事の高津さんは砂糖に関してはプロである。
その人のいうことを聞いておけば間違いない。
もう二、三発のS高を予定して、
S高、S高を売りあがろうと思って売ったところ、
次の日はS高ではなくS安になってしまった。
お正月から、これは縁起がよい。
高津さんは福の神である。
砂糖が上がると小豆は下がる。
これはジンクスである。
砂糖がS安をしたから小豆が小反発した。
砂糖が安いと小豆が高くなるのである。
これもジンクスである。
さて、これから先の砂糖の相場がどうなるかは
筆者には判らない。
しかし小豆の相場は
〝これからが相場〟という格好で、
もちろん大暴落だ。
伝えるところでは
台湾小豆の輸出余力は九千㌧だそうだ。
東京では三晶が台湾小豆が渡せる四月限より
むこうの限月を、さかんに売っている。
一月下旬の北京商談でも小豆の契約は進むであろう。
いまのうちに大手買い方は逃げておきたいところで、
大阪では伊藤さんの丸五商事が
煽っては逃げる構えであった。
目下のところ、
一万四千円の攻防という相場つきだが、
明らかに買い方は苦戦である。
それは見ていて実に、いたいたしい。
丸五の手口など、悲壮さを感じさせる。
玉砕寸前という感じだ。
「将兵飲まざること三日、
木の根をかじり蝸牛を食べて抵抗中」
「明後七日米軍を索めて攻勢に前進し
一人克く十人を斃し、もって全員玉砕すべし」―
サイパン島守備隊最後の無電である。
「ア」号作戦失敗。サイパン島玉砕。
米軍グァム島に上陸。
テニアン島守備隊全員玉砕。
天皇戦局の重大化を憂慮、
伏見宮、梨本宮、永野、杉山の各元帥を召集。
マリアナ島喪失。陸海軍対立。
米軍ペリリュー島へ。
モロタイにも上陸。
聯合艦隊レイテ湾で大損害。
レイテ作戦失敗。
米軍リンガエン湾へ上陸。米軍マニラに突進。
そして硫黄島→沖縄→原爆となる。
敗け戦さは、
それがそのまま相場の闘いにも当てはまるのである。
●編集部注
明治は遠くなりにけりと詠んだ句が、
昭和は遠くなりにけりと本歌取り。
ストップ安が、
さあきっとぶれいかあに変わったのは
何時の日だったか。
平成も遠くなりにけりと詠まれるのも、
そう遠くない時代になった。
【昭和四七年一月七日小豆六月限大阪五〇円高/東京一〇円高】