昭和の風林史 (昭和四六年九月二三日掲載分) (2013.10.15)
馬鹿共という 同じ愚繰り返すを
同じ愚(ぐ)を
二度も三度も繰り返すのを馬鹿共という。
穀取は馬鹿共の阿呆揃いである。
「けふ干してぬくき蒲団ぞちゝろ虫 古郷」
全商連会長の三木滝蔵氏が、よく
『穀取は罪悪の巣みたいなものだ。
商品業界が本当の姿に戻るためには
小豆相場の上場を廃止しなければ駄目だ』
―と、まだ全商連の会長になる前は、口ぐせであった。
三木氏は全商連の会長に就任して以来、
公の場では穀取罪悪論を唱えないが、
腹の中では、きっと
小豆はいんちき、まやかし相場だと思っているに違いない。
筆者の編集室の斜め向かい三木さんの会社の三共生興である。
ここ数日来、うるさくて仕様がない。
三木さんの会社が備後町の一角の広大な土地を買収して、
そこの建物をショベルカーで破壊し
ダンプカーが、うなりをあげて出入りしている。
名門〝滝定〟の建物も含めて、
三共生興は、どえらい土地を所有したもので、
ここに巨大なビルでもつくるつもりなら先が思いやられる。
非常な騒音であるからだ。
あまりうるさいので、全商連の三木さんの話が
三共生興のショベルカーの騒音に、横道にそれたけれど、
実際困った事だ。
困ったというのは三共生興の話ではなく穀取の社会悪である。
筆者はなにも相場が高いから社会悪というのではない。
穀取の馬鹿共は総じて腰抜けで、全般に阿呆揃いである。
その事は本人たちも認めているから異存はない。
馬鹿共の阿呆揃いは、
去年の二月の時に犯した愚(おろ)かな行為について、
その後なに一ツ対策も講じていなかったし、
反省もしていなかった。
同じ愚(ぐ)を二度も三度も繰り返す奴を馬鹿共という。
その限りでは穀取は馬鹿共の巣である。
このことについても業界では異存がない。
店が、客に買われて暴騰したら上値を制限した。
去年は客が総売りで暴騰したから、
値崩れしないうちに下値を制限してしまった。
今年は向かい玉が規制されているので、
値段のほうはなんにもしなかった。
腰抜け揃いである。
そして
相場師の協会長や市場管理委員会や取引所実力者たちが
自分の玉の関係で思惑を交えて対策を打ち出した悪い奴である。
全商連の三木会長は、よく
『あんな悪いやつはいない』と言うが、
その言葉をそのまま拝借して、
誰に彼にみなぶっつけてやりたいし、
馬鹿共の阿呆揃いにそんな事しても、
つまらん事かと思ったりもする。
●編集部注
同じ愚を二度も三度も繰り返す―。
この愚の中に、
梶山季之の小説「赤いダイヤ」で語られた時代の
小豆相場が含まれているのは言うまでもない。
上の文章が掲載されたのが昭和四六年。
小説が刊行されたのが昭和三七年。
翌年にTVドラマ化されたが、文庫化されたのが昭和五十年。
十数年前この文庫版を古本屋で見た時は、
絶版だったのでべらぼうに高かった。
GHQがいた時代の話故に、
システム等の違いが理解できぬ箇所はある。
ただそれでも、今読んで充分楽しめる内容である。
脚色はあろうが
〝実力者たちが自分の玉の関係で思惑を交えて対策を〟
講じる場面は小説でも登場。
結末は解け合いで確かに同じ事の繰り返しだ。
十年近く経って変革もなければ、
苦言の二つや三つ書きたくもなろう。
【昭和四六年九月二二日手亡十一月限大阪五〇〇円安/東京五〇〇円安】