昭和の風林史 (昭和四六年九月一日掲載分) (2013.09.19)
一本の道に出でけり秋の暮。
小豆相場はようやく一本道に出た。
大規制までは買いの一手である。
「秋草や浅間は今年おだやかに 武雄」
なにがなしたのしきこころ九月来ぬ―という句がある。
九月の声を聞くと、なんとなく、ほっとするものである。
ところが小豆相場のほうは、
これからが、売り方火焔地獄の苦である。
北海道庁では冷害対策本部を設置する。
すでに冷害凶作は決定的となった。
なおこのうえ、早霜の追い打ちは、
可能性の問題としてではなく、
現実の問題として前途に控えている。
ニクソン・ショックには、
その圏外にあった穀物(先物)市場も、
ここにようやく事態の容易ならぬことを認識し、
騒然としてきた。
不幸にして、その時、
丸上商会の経営破綻(はたん)を
発端にする不祥事件の表面化が予想され、
業界は憂色を深めている。
思うに、わが業界は
取引員移行によって危機を脱したのではなく、
依然として難儀で苦難な道を歩んでいる。
よほど心してかからねばならない。
九月新ポ、
相場は騰勢をさらに強めていくことが予測できる。
買い方もここに来て、
わが玉に利の乗ることを喜んでいいのか、
あるいは市場の存続を心配すべきか、
忠ならんと欲すれば
孝ならずの心境であろうかと察す。
しかし〝そこに市場があり〟、
〝そこに相場が建っている〟
―限り、勝負に情は禁物である。
理性のもとにおける良識の名によって
強気すべきが当然である。
相場は、まだまだ上である。
相場金言に『もうはまだなり、まだはもうなり』
とあるけれど、
今の時点では『もうのまだ』の相場と判断する。
『もうもうのまだまだ』である。
一発材料出現で、ぶっぱなしになるだろう。
このままではおさまらない。
少しでも押せば、すかさず買われよう。
きょう新ポ、夜放れ高の朝寄りから、
一本に赤い尾を引いて陽線は
12・1月限の七千円抜けとなるだろう。
今からでも買える!!
いや、今からでも―ではない。
今だからこそ買えるのだ。
ここまで来たら一本の道に出でけり秋の暮。
新穀相場は結局八千円台である。
場は、まだ冷静である。
大規制、大増証までは
一本の道を付き進むのみである。
●編集部注
もうもうのまだまだ!
この時代の流行語大賞になりえるくらいドンピシャな相場観。
後から観れば誰でも相場に理屈は付けられる。
しかし、先の事をここまで言い切ることはできない。
まるで将来を見てきたような書きっぷり。
この時の風林には何かが憑いていたのだろう。
【昭和四六年八月三十一日小豆一月限大阪一四〇円高/東京一九〇円高】